第23章 殺意の目
「…おや?」
「うん?どうしたの?アドナキエル」
「何だろう、これ?」
アドナキエルは、シャワールームに踏み込むと、矢庭にそのすりガラスの扉を閉めた。
「!」
ガチャンと音を立てて絞められた扉には同じく血でべっとりと何かが描かれてある。
一度徐に開けて中に入って見てみる。
ここの絵は、背後にある絵より乱雑に描かれたようだ。
「何だろうね?」
アドナキエルが後ろで首を傾げて絵を見ている。
私にもよくわからないその絵は、言葉で表すのは少々難題だ。
「炎…のように見えなくもない?」
モヤモヤと2メートルはある扉にデカデカと書かれた炎のような表現の絵。しかし、後ろの絵と少し違うのは炎のように先端が尖っておらず、湾曲して描かれている。
「その中心には…うん?これは?人?」
「にしては手足ないんだけど…」
同じく上が丸く曲がった楕円が描かれ、その下から伸びるように細い長方形の線が繋がっている。
パッと見る限り人に見えなくもないが、人だとしたら、楕円から下に伸びる線が曲がり過ぎている。つまり、首をおかしな方向に曲げた状態だということだ。
だが先程も言った通り、人だとしたら手足が無い。
「レイリィは絵描きだった…人だったら手足を描くでしょ」
「でも手首から血を流してるんだ。そんな時間なんて彼に無い」
「棒人間でもいいでしょ。なのに、長方形なんて時間がかかるものを描いてる…これは人じゃない」
「だけど、これで決まったね」
ガチャリとドアが開いて、向こうでスチュワードが室内の方を目で睨みながらそう言った。
私は首傾げてシャワールームを出る。