第2章 帰郷
「ハァ、、、ハァ」
どうして?
私が伊之助さん達の部屋を飛び出して、無我夢中で走って辿り着いたのは、あの縁側だった。
いや、正確に言うと、辿り着いたのではなく、この場所に着いた途端に足が動かなくなってしまった。
「ハァ、、、ッ」
分かっていた。
伊之助さんがしのぶ様のことをずっと気にかけていたことは。
それは善逸さんが言うように以前からの2人を見ていれば自然なことだということも。
私には何の関係もないと思いながら見ていたじゃない。
2人が指切りをする瞬間を。
伊之助さんの周りに漂うふわふわとした空気を。
いや、そんなこと以前の問題だ。
私なんかただのしのぶ様の弟子だ。
ううん、弟子なんて言うのもおこがましい。
カナヲのように継ぐ子になるどころか、戦いにさえ行けない私が、、、しのぶ様や彼らと同じ土俵に立つことを考えてはいけない。
彼の目に少しでも映ることを期待してはいけない。
当たり前じゃない。
それなのに。どうして?
どうして私は、、、
どうして私の胸は、これ以上走れないほどに痛むのだろう?
分かっていたのに。
しのぶ様への想いを実際に聞いただけで、あんなに動揺してしまったのだろう。
どうして、この場所に来てしまったのだろう。
痛むことは分かっていたのに。
どうして?
この縁側を見ただけで伊之助さんに抱きしめられた温もりを、匂いを鮮明に思い出して。
「う、、、っ、ふぐ、、、」
こんなにも涙が溢れて止まらないのだろう。
「しのぶ様、、、っ」
しのぶ様との思い出の場所で
「こんなのダメですよね、、、ッ」
こんな気持ちになるなんて、ダメだ。
蓋をしなければ、蓋を、、、。
「、、、、」
縁側に腰掛けるしのぶ様が言う。
「大丈夫、アオイならできるよ」
何度も言われたそんな言葉を必死で思い出す。
「はい、、、ありがとうございます」
そうだ、私にはやるべき事がある。
こんな一時の想いに振り回されている暇はない。
それが、戦えない私のせめてもの義務。
忘れよう。
こんな気持ちは最初から無かった。
そうすればほら、、、
涙も止まる。
ぐいっと目を拭って顔を上げた先でしのぶ様が微笑んでくれたような気がした。