第43章 きっといつか
伊(鬼が…鬼なんてものがこの世に存在しなければ、一体どれだけの人が死なずに済んだだろうか。)
伊黒の脳裏に浮かぶのは笑顔で笑いかけてくれる優しい桃色髪の彼女の姿。
伊(もし君と、何気ない日常で出会うことが出来ていたら…どんなに良かっただろう。いや、無理だな俺は…。まず、1度死んでから汚い血が流れる体ごと取り替えなければ…君の傍らにいる事すら憚られる。)
いつも隣で笑ってくれていた彼女。
死んで欲しくないと泣いてくれた彼女。
伊(甘露寺…俺は、人を殺して私腹を肥やす汚い血族の人間なんだよ。強奪した金で屋敷を構え、飯を食らい、する必要もない贅沢をする。恥を恥とも思わない。業突張りで、見栄っぱりの、醜い一族…。)
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女ばかり生まれる家だった。
男が生まれたのは370年振りだと言われた。
俺は生まれた時からずっと座敷牢に入ってた。
俺の母や姉妹・叔母達は皆、猫なで声で気色が悪い程親切で、とにかく毎日毎日俺に食い物を持ってきた。
換気もままならず、充満する脂の匂いに吐き気を催した。
座敷牢は夜になると、ズリ…ズリ…と何か巨大なものが這い回る不気味な音がする。
視線も感じた。
粘りつくような視線だ。