第4章 片恋コンサルテーション!【アズール】
一口。
たった一口食べてしまえば、ヒカルは永遠にアズールのものになる。
どす黒い感情が心を覆い、平静な笑みを浮かべるのに苦労する。
ヒカルは知らない。
アズールがどれだけ彼女を欲し、求め、そして怒っているのかを。
(あなたが悪いんですよ? 僕から離れていこうとするから……。)
そこにヒカルを思いやる気持ちなんか欠片もない。
ヴィランらしい思考に蝕まれたアズールは、愛しい人が異世界の食べ物に含まれた毒を摂取するのを今か今かと待った。
こちらの目論見など一切知らないはずのヒカルは、なかなか納豆を口にしようとしない。
まさか、勘づかれたか……?と不安に思ったが、ヒカルの口から出てきた言葉は、アズールが考えもしなかったこと。
「……よかったね。」
突然投げかけられた言葉に、首を傾げた。
良いことなんか、ひとつもない。
ヒカルは異世界へ帰ろうとするし、毒薬入りの納豆を食べてくれない。
アズールがよかったと思えるのは、彼女が陸で生きられない身になって、海の底で自分だけを頼る瞬間が訪れた時だけ。
「これだけ真摯に想ってもらえたら、ユウの心にも響くと思う。ここまでたどり着くまで長かったけど、よかったね。」
アズールの顔を見ず、そう祝福されて思い出した。
そういえば、最初はユウが好きだったのだと。
この納豆も、もとはといえばユウのために作り、ヒカルに協力を乞うたもの。
代わりに彼女は、アズールに願いを叶えてもらう契約で。
ふと、ヒカルの願いが気になった。
何度か尋ねてみたことはあるけれど、そのたびにはぐらかされ、教えてはもらえなかった願い。
「……ヒカルさん、僕に叶えてもらいたい願いはなんですか?」
どうせ、元の世界に帰る方法を見つけてくれとか、そういう願いだろう。
そんな願いは、叶えられたとしても叶えるつもりはない。
それでもヒカルに尋ねたのは、この機会を逃してしまえば、永遠にヒカルの望みを知られないだろうと思ったから。
逃すつもりも、返すつもりもないけれど、最後にヒカルの願いを聞いてみようと、そう思っただけ。