第4章 片恋コンサルテーション!【アズール】
アズールは、卑怯で強欲な男だ。
欲しいものは必ず手に入れるし、逃がしたくない。
アズールは、ヒカルが欲しかった。
元の世界に帰したくないし、帰すつもりもない。
例えヒカル自身が帰りたがっているとしても、彼女が自分の傍から離れるのを許容できるほど、慈愛に満ちてはいないのだ。
元の世界に帰る手立てが見つかった今、彼女を引き留められるものはなんだろう。
契約で縛れず、ここに繋ぎとめておけないのならば、どうするべきか。
答えは簡単だ。
ここに、アズールの傍にいなくてはならない“理由”を作ればいい。
生半可な理由では意味がない。
故郷を諦められるくらい、大きな大きな理由。
アズールに叶えられない願いなど、ない。
それは自分自身の願いであっても同じで、ヒカルが元の世界に帰ると知った瞬間、彼女への恋心に気づいた瞬間、卑怯で卑劣な方法を思い浮かべた。
今、彼女の前にあるものは、ただの発酵食品ではない。
午後の授業を棒に振って、ジェイドと共に調合した薬が入った食べ物。
無味無臭な青い液体が入った小瓶が、アズールの内ポケットの中でちゃぷんと揺れた。
これは、言わば毒。
ヴィルと取引きして手に入れた世にも珍しい植物から抽出したエキスで作られた毒には、とある効果がある。
呼吸困難を引き起こし、体温調節ができなくなり、やがて死に至る。
ただしそれは陸上に限っての効果で、水中であれば別の効果をもたらす。
水に含まれた酸素を取り込むことができ、冷たい水温にも耐えられる。
つまりこの毒は、陸を捨て、海で生きるための薬。
(陸で生きられなければ、元の世界に帰る意味もないでしょう……?)
家族と暮らせず、世間から奇異な目で見られ、あらゆる機関に“実験動物”として扱われるくらいなら、この世界にいた方がマシだ。
そして、海の中で暮らすのであれば、彼女が頼る者はアズール以外にいない。
その原因がアズール自身にあろうとも。
だから、さあ、僕を選ぶ薬を食べて。