第4章 片恋コンサルテーション!【アズール】
ソファーに座るよう促されたのと同時に、それまでへばりついていたフロイドとジェイドが部屋から出て行った。
VIPルームから退出し、扉が閉まったあと、がちゃりと鍵が掛かる音がした。
外から施錠されたことを不審に思ったが、目の前にいるアズールが喋りかけてきたのですぐに気が逸れた。
「今回お呼びしたのは、以前からヒカルさんに協力をしてもらっていたコレが完成したからです。」
そう言ってテーブルの上に置かれたものは、皿に入った発酵食品。
変色し、独特な匂いを発するそれは、アズールがユウのために開発を進めていた納豆だ。
「おぉ……、見かけは完全に納豆だね。」
思い出の中の納豆がしっかり再現されていて、素直に感服した。
「味もきっと、ご期待に添えると思いますよ? さあ、どうぞ召し上がってください。」
両手を組み、にこにこ微笑みながら試食を促すアズールは、昼間の一件についてなにも尋ねてこない。
涙の理由も、ヒカルがアズールを避けていた理由も、なにひとつとして追及せず、微笑むだけのアズールは気味が悪い。
「どうしました?」
「いや、別に……。」
追及をされたら困るのはヒカルだ。
違和感には触れず、速やかに試食をして去った方がよさそうだ。
納豆に調味料を入れ、ぐるぐる掻き混ぜながら思う。
よくぞまあ、ヒカルの言葉だけで未知なる食物を完成させたものだ。
執念とも呼べるそれは、ユウに好かれたい一心で作り出したもので、もしかしたら、アズールの想いはユウに届くかもしれない。
そうなれば、ヒカルの役目は終わる。
契約も切れ、相談役を解任され、こうして二人きりで会うこともなくなるだろう。
だから、そうなる前に言っておきたい。
「……よかったね。」
唐突に呟けば、頬笑みを浮かべたアズールが怪訝そうに首を傾げる。
「これだけ真摯に想ってもらえたら、ユウの心にも響くと思う。ここまでたどり着くまで長かったけど、よかったね。」
本当は、よかったなんて思っていない。
けれど、嘘でも祝福してあげられるのは今だけだから。
アズールがユウに想いを告げたら、アズールがヒカルの願いを叶えてくれたら、もう二度と、よかったともおめでとうとも口にできない。
そう、知っているから。