第4章 片恋コンサルテーション!【アズール】
くつり、とフロイドが嗤う。
「どーして帰すつもりなわけぇ? 帰る方法が見つかったって、帰さなければいいだけなのにさ。」
同じような顔で、ジェイドも嗤った。
「なにを悲しむ必要があるのです。簡単なことでしょう? ……貴方なら。」
覆った手のひらの下で、零れんばかりに瞳を開く。
なぜ、去っていく彼女を逃すつもりでいたのだろう。
離れようとするならば、離れられなくするまで。
帰ろうとするならば、帰れなくするまで。
そう、簡単なことだ。
アズールならば。
両手を外し、顔を上げた。
そこにはもう、絶望と悲嘆に暮れるアズールはいない。
「……フロイド。ヒカルさんを見張っていてください。学園長の部屋に行かないように、片時も離れず、ずっと。」
「りょーかい。」
「……ジェイド。今から“とある薬”を調合します。ついてきてください。」
「ええ、お供しましょう。」
絡みついたウツボの腕が、するりと離れた。
こうでなくちゃ、おもしろくない……と双子が嗤う。
しかし、アズールはフロイドとジェイドに唆されたわけではない。
手段を択ばず相手を屈服させるのは、元来アズールの性格である。
陸の王子に恋した人魚姫のように、声と命を懸けて二本足を得るような愚挙をアズールは冒さない。
もしアズールが伝説の人魚姫なら、王子に薬を飲ませ、深海に引きずり込み、逃げ出さないよう鎖をつける。
最初は恨まれたとしても、暗い海の中で頼れるものが自分だけなら、いずれ心は絆されていく。
それが真実の愛でなくても、どうでもいい。
傍にいてくれさえすれば、それだけで。
卑怯者だと罵られても構わない。
アズール・アーシェングロットは、そういう男だ。