第5章 ①明治トリップ女子、最強の狙撃手に溺愛される/明治【R15】
引き金を絞る指に迷いはない。
鋭い銃声が森に響き渡るのと、巨大なヒグマがこちらへ走り出すのは、ほぼ同時だった。
尾形の一弾が、突進するヒグマの眉間を正確に捉えた。
だが、死に物狂いの獣は止まらない。
「……チッ」
舌打ちひとつ。
もう一度銃を構えたところで、脇の藪から杉元が弾丸のような速さで飛び出してきた。
杉元は迷うことなく、素早く片手で腰の銃剣を抜き放ち、殺傷圏内に入ったヒグマの心臓へと迷いなく突き出した。
断末魔が響き、圧倒的な力を持つ巨大が、和栗の目の前で大きな地響きとともに崩れ落ちた。
倒れ伏したヒグマが上げる最後の土煙が、冷え切った朝の空気に混じっていく。
「……和栗さん大丈夫?!」
杉本が倒れ伏したヒグマから銃剣を慣れた手つきで引き抜く。
「っびっ…くり、した…」
和栗は呆然自失になり、木の根元にへたり込んでいた。
尾形は銃を肩に担ぎ直し、硝煙の匂いを漂わせながらゆっくりと和栗の方に振り返った。
羆が襲いかかる寸前まで彼女に固執していた自分を、いま、極めて冷酷に嘲笑っている。
「……俺だけで十分だった」
「なんだとコラ尾形!俺がヒグマの声に気づかなかったら和栗さんが危なかっただろーが!」
杉元は尾形と額がくっつきそうなほど近づいてガンを飛ばすと、和栗に向きなおった。
「立てる?俺につかまって」
杉元がそっと彼女に手を差し伸べると、尾形がわずかに目を細めた。
「ありがとう・・どうもまだこういうの慣れなくて・・・」
和栗は手を掴むと、ヨタヨタと立ち上がった。
「慣れる必要なんか無いよ。和栗さんがいたところはのどかだったんだろうから」
さて、と杉元は熊を見下ろした。
「どうしよう。アシリパさんから教わって一応覚えてはいるけど、1人でやるのは初めてだなぁ」
そういうと杉元は迷いなく短剣を差し込んでさばいていった。
和栗は初めて見るその光景に、生唾を飲んだ。
でも私、皆のこともっと知りたい。
「あの、杉元くん、私にもお手伝い出来ることがあったら言ってね」
杉元は嬉しそうに礼を言うと、アシリパから教わったことを和栗に話してくれた。
束の間、帰路のことも尾形のことも忘れて、集中して話を聞くのだった。
【END】