第5章 ①明治トリップ女子、最強の狙撃手に溺愛される【R15】
視界を埋め尽くすのは、森の木々でも朝の光でもなく、自分を押し潰さんばかりの尾形の広い肩だ。
「……まって、なに、して……っ」
混乱のまま、震える手で彼の胸を押し返そうとする。
だが、その手応えは岩のように硬く、ぴくりとも動かない。
それどころか、和栗の拒絶に近い動きが、かえって尾形の獣じみた本能に火をつけた。
「……待てない。……お前が、悪いんだ」
尾形の声は、地を這うような唸りに変わっていた。
和栗の細い手首を容赦のない力で掴み上げると、頭上の幹へと縫い付ける。
逃げ場を完全に塞がれ、彼女の小さな体は彼の胸板と樹皮の間に深く閉じ込められた。
「へ…?あの…ちょっと待っっ」
必死の抗議さえ、今の尾形には獲物の甘い鳴き声にしか聞こえていない。
尾形は和栗の言葉を食むように唇を塞いだ。
「んっ」
「黙ってろ」
口元で囁く尾形の低い吐息混じりの声で背中が震える。
乱暴な言い方なのに優しさが混じるような声色なのがずるいと思ってしまう。
今まで無かった突然の暴走気味な彼の熱に当てられ、和栗の意識が再び混濁しかけたその時、バキリと重い何かが枝を踏む音が背後でする。
尾形の動きが、氷を浴びせられたように止まった。
「――グゥォオオオオオッ!!」
鼓膜を突き刺すような、地鳴りに似た咆哮が森の奥から炸裂した。
木々の隙間から、立ち上がれば優に2メートルを超えるであろう巨大なヒグマの影が、怒りに燃えるような瞳でこちらを射抜いている。
尾形の噴き上がっていた熱情は一瞬で霧散し、彼の瞳には生存本能としての冷徹さが即座に戻った。
尾形は彼女を庇うように背後に押し込むと、背負っていた歩兵銃を流れるような動作で据える。