第115章 紀州動乱
元就の目が、鋭く信長を射抜いた。
「俺はな、信長。この国の偽りの仮面を剥がして、むき出しにしてやりたいだけだ」
静寂。
遠くで、ごおっ、と火の手が上がる音がする。
信長はゆっくりと刀を下ろした。
「だから帝を退位させたか」
「そうだ」
元就は笑う。
「これで誰も『天の名』を借りて戦えない。実力のない者は舞台から去り、実力のある者が自らの力で天下を奪えばいい。それこそが真の平等だ」
「………」
「いい時代だろ?」
信長の口元が僅かに歪み、嘲笑が漏れる。
「愚かだな、元就」
「なに?」
「人は理由なく戦えぬ。理由がなければ、無理にでも理由を作ろうとする。人とはそういうものだ。帝という『駒』は使い道がある。乱世を終わらせるための大きな理由になる、大事な駒だ」
元就は肩を揺らして笑った。
「ははっ…結局、お前も俺と同じじゃねぇか。本心では帝はいらねぇと思ってるくせに、駒は必要ってか?笑わせんな」
「使えるものは使う。貴様のように全て壊してしまえばよいとは思わん」
パチパチと火の粉が爆ぜる音が近くで聞こえていた。
火勢が広がっているのか、黒い煤がひらひらと宙を舞い、ごぉごぉという勢いのある火の音が聞こえる。
「どのみち手遅れだ。『駒』はもう使えない」
「いや、まだだ。『それ』はまだ世に出ていない。ここで、貴様ともども灰にしてしまえば…全て元通りだ」
元就が手にする巻物を刀で指し示しながら信長は不敵に笑った。
「はっ…やれるもんならやってみろよ」
信長の言葉を受け、元就は挑発するかのように巻物を掲げてみせる。
「お前とはそろそろ決着を付けたいと思ってたところだ」
そう言うや否や、元就は間合いを一気に詰めた。
火の粉を巻き上げながら振り下ろされる刃を信長は紙一重で受け流し、鋼と鋼がぶつかる高い音が耳を劈く。
キィィン――!
「貴様がやろうとしているのは、ただの破滅だ」
「破滅で何が悪い?全部ぶっ壊して、ゼロから作り直す方がよっぽど早ぇだろ」
続けざまの剣戟は重く、速く、迷いのない太刀筋だ。元就の振るう剣は、まるで世界そのものを断ち切ろうとするかのようだった。
信長は後退しながらも、その全てを受け止める。
「だから貴様は浅い」