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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第115章 紀州動乱


「ひっ、怯むな!蹴散らせ!」

突如現れた門徒勢からの攻撃に、足軽達が浮き足立って後退し始める。
それを叱咤する足軽頭でさえ、その表情には怯えの色が見え隠れしていた。
戦場において、死を恐れず一心不乱に突き進んで来る者ほど恐ろしいものはない。
百戦錬磨の織田軍にあっても、死兵と化した門徒勢は厄介な敵だった。

「馬を曳け。討って出る」

傍近くに控える小姓に短く言うや否や、信長の足は既に天幕の外へと向かっている。
曳かれて来た愛馬にひらりと飛び乗った信長は近侍の兵が揃うのを待たずに一人馬腹を蹴って一気に駆け出す。

「お、御館様に続け!」

吹き抜ける風のように飛び出して行った主の後を追わんと、出遅れた兵達が慌てて駆け出す。
その横を一頭の騎馬がこれまた一陣の風のように颯爽と駆け抜けて行く。
信長の動きを予想し、素早く反応した秀吉であった。

「お供仕ります。御館様」

一束の乱れなく隣に馬を並べた秀吉を、信長もまた当然のように一瞥することなく馬を走らせる。

「信長だ!」
「殺せ!首を獲れ!」

信長の姿に気付いた門徒衆からは、湧き上がる熱気とともに狂気のような声が上がる。
餌に群がる蟻の如くわらわらと集まって来た門徒衆は信長主従に近付き、ぐるりと取り囲む。
武器を握り締め、口々に念仏を唱えながら、ジリッ、ジリッと距離を詰めてくる彼らの顔は異様なほどの狂気に満ちていた。

「道を開けろ。貴様らに用はない」

「魔王め!地獄に堕ちろ!」

見るからに粗末な刀を振り上げて襲いかかってきた門徒の一人を信長は一切の躊躇いなく薙ぎ払う。

「ぐあぁっ…」

血飛沫を上げて倒れた男は一瞬の痙攣の後、ぴくりとも動かなくなる。
だが、無慈悲な殺戮を目の当たりにした門徒達の表情には怯えの色はない。信仰という盲目的な熱に浮かされた者たちは、同胞の死にも怯むことはなく、目に見えぬ何かに背中を押されているかのように足を止めない。

「鬼め!仲間の無念、思い知れ!」

ひゅっ…という風を切る音とともに信長に向けて一斉に弓矢が放たれる。

「御館様っ!」

素早く信長の前に立ち塞がった秀吉は、刀を抜き放ち、飛来する矢を打ち払う。
中には完全に防ぎ切れず肩や腕を掠めた矢もあったが、秀吉は顔色一つ変えなかった。

「御館様に弓引く者は、一人としてこの俺が許さねぇ。お前ら、覚悟しろ!」


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