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永遠の恋〜信長の寵妃【イケメン戦国】

第110章 魔王の霍乱


この時代、病の治療法といえば古来より行われてきた祈祷や呪(まじな)いの類いを行ったり、薬草を擦り潰した漢方薬などが用いられていたが、それらは貧しい民百姓にまで行き渡るものではなかった。
単なる風邪でも命を落とす者は多く、一たび流行の兆しが見えれば瞬く間に彼方此方に広がっていくのが常であった。
それ故に流行り病は初期の対応が最も重要であり、現状の把握が急務であったのだ。

(秀吉の言うとおり、薬はまだ高価なものであり、貧しい者には易々とは手に入らないのが実情だ。薬の材料となる薬草を集めるにしても自然にあるものには限りがある。数が限られればその分、値も上がる。必要な時に安定して手に入らねば意味がない。薬があれば助かる命があるのなら、皆が安心して医者にかかり、身分や貧富の差などなく誰でも容易に薬が手に入る世の中にならねばならない)


「……信長様?あの…大丈夫ですか?」

心配そうな声音とともに腕にそっと触れる手に、信長はハッと我に返った。顔を上げると不安げに表情を曇らせる朱里と目が合った。

湯浴みの後、信長の濡れた髪を拭いていた朱里は、何事か思案するように推し黙ったままの信長の様子が気に掛かり、躊躇いがちに声を掛けたのだった。
朝に約束したとおり、信長はさほど遅くない時間に自室へと戻って来てくれたが、少し様子が違うように思われた。
今朝はすっかり回復した様子で安堵したが、戻ってからもどことなく心ここに在らずで険しい表情を隠そうともせず口数も少ない様子に、やはりまだどこか具合が悪いのではと不安になったのだ。

「やはりまだお加減が良くないですか?」

「いや、大事ない。少し考え事をしていただけだ。案ずるな、大したことではない」

「そう…ですか?」

頬に落ち掛かる滴を指先で拭いながら、ふぅっと息を吐く信長は気怠げでどこか憂いを帯びて見えた。
身体の具合が悪いわけではないのなら何か心配事でもあるのかと気掛かりだったが、こういう時の信長は聞いても答えてはくれないことが多い。

(政のことで私にできることなどないのかもしれないけど…私にもできることで信長様の憂いを少しでも晴らして差し上げることができたら…)


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