第7章 匂いに酔う【竈門 炭治郎】
「美桜ちゃんにも大事な人ができたんだね」
輝哉は美桜の持ってきた花の匂いに気付きあまねに微笑む
「美桜さんは優しい人ですね…すぐにでも竈門さんの事を聞きたかったのでしょうけど、一緒に掃除をして下さいました」
「そうみたいだね。新鮮な花の香りもしているね…昔から本当に変わらないな」
初めて逢った時は両親の影に隠れて顔を上げない子供だった。それを不思議に思っていたら、美桜の瞳の色を見て何となく理由が分かった。
「君の瞳は綺麗な翡翠色だね」
「ひすい?」
視線を合わせて美桜に言うと、父親の着物をキュッと握りしめたままの美桜は首をかしげた
「ちょっと待っていてね」
輝哉は奥に消えて、戻って来た時には手に大玉の翡翠がついた簪があった
「これが翡翠だよ、美桜ちゃんの瞳と同じ色に私には見えるよ」
美桜に見せると、ぱあっ と顔が明るくなり
「ありがとう…輝哉様…また来てもいい?」
顔を赤くして言う美桜に、輝哉は美桜の頬に手を伸ばしニッコリ微笑むと
「その綺麗な瞳を見せに、いつでもおいで美桜ちゃん」
輝哉は美桜の初恋の相手でもあり、瞳の色を家族以外で初めて「綺麗だ」と言った人でもあった
そんな輝哉に気付きもせずに走り去った美桜の方をみて
「あまねは怒るかもしれないけど、美桜ちゃんが恋をしているのが少し寂しいかな」
あまねの手を取りながら、少しいたずらっ子のような笑みを浮かべた
美桜は全速力で白雪を走らせ山を駆け蝶屋敷へと向かう
いつもなら屋敷の外に馬を繋げて行儀よく屋敷に入ってくる美桜が、突然馬に乗ったまま塀を飛び越え庭に入ってきたものだから、蝶屋敷で働く隠と3人娘とアオイの悲鳴と馬のイナナキが屋敷中に響きに渡る
何事かと屋敷の主である しのぶと、たまたま薬を取りにきていた元柱の宇随が庭に飛び出した
馬上から飛び降りた美桜は、しのぶの姿を見つけ駆け寄りたかったのだが、全速力で走る馬に長く乗っていたから足がもつれてうまく走れない
「美桜さん!……宇随さんは馬をお願いします」
いつもとは違う美桜に、何者かに襲われたのかとしのぶはあわてて駆け寄った
「しのぶちゃん…炭治郎くん…は?」
「……えっ?」
「竈門炭治郎くんは生きてますか?」