第7章 匂いに酔う【竈門 炭治郎】
「初めて美桜さんを見た時からずっと気になっていたんです。山の匂いと薬草の匂いにまじって…凄く甘い匂いと…寂しい匂いがして忘れられないんです…」
一生懸命に思いを伝える年下の炭治郎に美桜はほだされ
「では友人からはじめましょう」と了承した
その日は沢山お互いの話をした
「今日は帰ります」と言った炭治郎を見送り、玄関で握手をした時に、炭治郎がキュッと美桜の手を強く握り美桜の手の甲に口付けを落とす
「美桜さんの匂いが…大好きです」
そう言って玄関を出て行った。
玄関に残された美桜は柔らかな口付けの感触が残る手を握りしめその日は炭治郎の事ばかり考えて眠れなかった
そんな告白を受けてからパタリと炭治郎が姿を見せなくなった。始めは任務が忙しいのかと思っていたのだが、ひと月以上にもなると何かあったのではないかと不安になる
両親も山を降りて戻らなくなった事が美桜の不安に拍車をかけ、夜明けを待って朝一番に産屋敷家へ向かった
「あまね」は早朝、隊士達のお墓の掃除を行っている。毎日墓参りに行く輝哉の為に道を清め花の手入れをしていた。
そこに美桜が麓の家で栽培している花を両手に抱えて現れた
「おはようございます、美桜さん」
突然の訪問に少し驚いた様子だったがあまねは美桜に柔らかく声をかけた
「あまね様、突然すいません…おはようございます。庭の花が綺麗だったので持って来ました。お手伝いさせてください」
あらかじめ小分けにして花束にしてあったのを二人でお供えしていく
あまねは美桜の様子から、これは口実で他になにか用事がある事は分かっていたが、あえて美桜から言い出すまでは黙っている事にした
あらかた掃除が終わった頃に美桜がようやく口を開いた
「あまね様は炭治郎くん…竈門炭治郎を知ってますか?」
「はい、鬼の妹を連れた隊士の方ですね知ってます……たしか最近怪我をされて蟲柱様の所に入院されてると……」
「入院 !? 」
美桜は、あまねも驚くほどにオロオロと動揺し
「ありがとうございました!失礼します」
そう叫ぶように言うと馬を繋げた木に駆け出して、飛ぶように馬を走らせ去っていく
その姿を黙って見送る事しか出来ないあまねの背後から品のいい笑い声が聞こえてきた。振り返るとそこには夫の輝哉が娘二人を連れて立っていた