第28章 【大切なもの】
何故、何故、何故いつも失くしてから、その大切さに気づくのだろう。
もうどんなに願っても労いの言葉をかけるどころか、あの長ったらしいお説教も聞くことは出来ない。
遅い、遅すぎる、いつだって後悔ばかりが残る。こんな事なら自分が死んだ方が百倍マシだ。
クリスは爪が食い込み、拳が白くなるほど強く手を握り締めた。
* * *
それからグリモールド・プレイスに戻ると、クリスは部屋に閉じこもり、ひたすら己の運命を呪った。
ホグワーツに入学したあの日、組み分け帽子に言われた言葉を思い出し、クリスは何故あんなに軽々と「己の運命に抗う道」を選んだのか、もし時間が戻せるのならあの時の自分に問い詰めたくなった。
お前の選んだ道は、本当に正しい道なのかと。
「ほら、やはりお前は呪われているんだ」
(……私は……私は……)
クリスの意識は、いつの間にか暗い闇の中を漂っていた。その闇の中で、クリスはもう1人の自分――いや、自分の中に潜む黒い影であるトム・リドルの声を聞いた。
「やはり僕の言ったとおりだ。もうお前を待っている人なんて誰も居ない」
(確かに、その通りなのかもしれない)
リドルの声は不思議と耳に馴染んだ。
低くもなく、高くもない。痺れる様に愉しく、蜜をすする様に甘く、蕩ける様に美しくクリスの心を蝕んでいった。
「お前にはもう何も残されていないんだ。家族も、友達も、お前の運命は全てそれを否定した」
(……そうだ、その通りだ)