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ハリー・ポッターと沈黙の天使

第28章 【大切なもの】



 ルーピン先生は、細くなり骨そのものと呼べるチャンドラーの手を取った。

「君は素晴らしい屋敷しもべ妖精だ。クリスのことは私たちに任せて、ゆっくりと休んでくれ」
「ありがとうございます、ありがとうございます……お嬢様、どうかお幸せに……お嬢様との楽しかった日々は……このチャンドラー、死んで、も、忘れ、ま……せ……」

 そこまでだった、チャンドラーが発した言葉はそこで途切れた。大雪の所為もあるだろうが、チャンドラーの体は氷よりも冷たく、固くなり、その後二度と動かなくなった。

「あ、ああぁ……ああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 降りしきる雪の中、チャンドラーが最期に守ったのが母様の墓標だった。それだけで、チャンドラーがこの屋敷を本当の意味で理解し、愛していたのが分かる。

 チャンドラーの遺体は母様の墓標の隣にひっそりと埋めた。多分大仰な墓石なんて作ったら、身分不相応だとまたキーキー煩いからだ。
 その様子を想像して、クリスはまた目頭が熱くなってローブの裾で顔を隠し、大雪にかき消されるようにすすり泣いた。

* * *

 チャンドラーの埋葬が終わり、好きなだけ涙を流すと、クリスは屋敷の中に戻って来ていた。
 暖炉には火が灯り、パチパチと薪が燃える音がやけに耳に響いた。
 大好きなルーピン先生の心配そうな顔が目に飛び込んできたが、クリスは笑うことも泣くこともなく、クリスはボーッと先生の瞳に映る自分を見ていた。

 その時の瞳に映るルーピン先生の、苦しそうな、辛そうな顔を見ていると、またしても冷たい雪の中での最期の逢瀬を思い出した――。

「せ、先生……チャンドラーが……チャンドラーが……」

 それ以上は言葉にならなかった。
 涙で視界がぼやけ、ルーピン先生の姿が歪んで見える。必死に涙を流すまいと唇を噛みしめるクリスを、ルーピン先生は力強く抱きしめた。

「もう良い、良いんだクリス。先ほどムーディ達が屋敷を巡回したが、『死喰い人』達はいなかった。もう戻ろう、辛かっただろう?」

 長年、親代わりに面倒を見てくれたチャンドラーに、自分は何をしてきたんだろう。いつも傍に居るのが当たり前で、減らず口ばかり叩いては怒らせて、困らせて、苦労ばかりを掛けて。ありがとうと感謝の一言すら掛けなかった。

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