第28章 【大切なもの】
だんだんと不安が募り、重たい石を飲み込んだ様に胃のあたりが重くなった気分がした。
と、その時どこからともなくの鳴き声が聞こえてきた。
クリスは急いで指笛を吹くと、白い雪の中に真っ黒い姿をした1羽のカラス――使い魔のが姿を現した。
「、チャンドラーが何処に居るか知っているか!?お前も一緒に探してくれ!!」
腕にとまったにそう話しかけると、は頷き雪が舞う天空を翔けめぐた。
すると何かを知らせる様に、大門から続く広いメインの路ではなく、屋敷の奥にひっそりとある母様の墓地の上をくるくる旋回しはじめた。
嫌な予感がしたクリスは、大雪だろうが何だろうが全てを振り切って母様の墓標へ進んだ。
そしてそこには、墓を守るように倒れて動かないチャンドラーの姿があった。
「チャンドラー!!チャンドラー、目を開けてくれ!」
「ムーディ!こっちだ、早く!!」
若干遅れて追いついたルーピン先生は、急いでムーディ先生を呼んだ。
クリスは冷たくなったチャンドラーを抱きしめ、今までチャンドラーに怒られながらも築いてきた日常を思い返していた。
やれスコーンが不味いと気取って癇癪を起こしたこと。作った服がダサいと酷い文句を言ったこと。どうして父様は自分と一緒にいてくれないんだと泣きじゃくったあの幼い日。
その全てにチャンドラーが居た。物心がつく前からずっと、ずっと傍に――。
「チャンドラー、私が悪かった……死なないでくれ、頼む。お前までいなくなったら、私にはもう家族と呼べる相手が居なくなってしまう……」
そう呟いた時、腕の中でピクリとチャンドラーの腕が動く気配がした。バッと急ぎ顔を見ると、冷たい体のチャンドラーが、息も絶え絶えにしゃべり始めた。
「お嬢様、お嬢様、申し訳ございません。チャンドラーはお屋敷をお守りすることが出来ませんでした。どうか、どうか罰を……」
「罰なんてとんでもない!先生、早く聖マンゴへ……!!」
「……クリス、聖マンゴは人間専門の病院だ。チャンドラーを連れて行っても意味がない」
その時のルーピン先生の声は、軋むような固さと脆さの両方が合わさっていた。