第26章 【盗み聞き】
不味い、この会話を病室の中にいる大人たちに聞かれたら、盗み聞きをしている事がバレてしまう。特にムーディ先生の耳に入ったら厄介だ。
先生の魔法の眼がこちらを向く前に、フレッドが素早く全員分の『伸び耳』を回収しポケットに突っ込んだ。
とにかくバーニー先生には早くこの場から去ってもらわなければ……。
クリスは半分引きつった笑みを浮かべながら、この場からバーニー先生を引き離す為に、さり気無く誘導するようにその場を後にした。後は運を天に任せよう――。
それから10数分後、バーニー先生と何気ない会話を終え皆を待っていると、ちょっと気まずい顔をしたウィーズリー兄妹とハリー達がやってきた。
その後ろにはウィーズリーおばさんやムーディ先生たちもいる。おばさんの顔色を窺うかぎり、どうやら盗み聞きの事はバレていないらしい。
それよりも心配なのは、ハリーだった。ヴォルデモートが憑りついているなんて言われたら、ショックを受けているに決まっている。
現にハリーの顔色は先ほどと変わらず真っ青で、それなのにどうにかショックを隠そうとしているのが余計に痛々しく感じた。
帰りの電車の中でも、ハリーは一言も話さなかった。ウィーズリーおばさんが心配して、ハリーに屋敷に戻ったら部屋で休むように言うと、ハリーは小さく頷いただけだった。
このままでは不味い。クリスはこのことを誰かに相談しようと考え、咄嗟にシリウスの顔が浮かんだ。
そこで屋敷に戻ると、クリスはシリウスと一緒にバックビークの部屋に籠って一部始終を話した。
「――と、言うわけなんだ。どうしようシリウス……」
「ふむ、まあ君たちが盗み聞きをしたのは良い事とは言えないが、何も知らされず事実を隠していた方がショックじゃないのか?」
バックビークに餌をやりながら、シリウスはあまり心配していない様に言った。
そうは言っても、実際ハリー自身は大きなショックを受けている。あんな風に青ざめた顔で俯くハリーの姿を思い出すと、何もしてやれない自分が歯がゆかった。