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ハリー・ポッターと沈黙の天使

第13章 【PMCS】


 ハーマイオニーの言葉は、まるで自分に言い聞かせているような強い口調だった。まだ『反吐』を諦めていなかったことに、流石のクリスも頭を抱えざるを得なかった。

 あのクリーチャーを見て尚、屋敷しもべが純粋で汚れなき可哀想な生き物だと思っているハーマイオニーの思考は、クリス理解の範疇を超えていた。
 ハーマイオニーが女子寮への階段を上って行ったのを確認してから、ロンが不格好な帽子を拾った。

「取りあえず、これが帽子に見える程度までには編み物の腕を上達させないと、ごみと一緒に捨てられるだけだぜ?」
「そう言うな、友よ」

 全面的にロンの意見に賛成したい気持ちを押さえつつ、クリスはハーマイオニーがこれ以上屋敷しもべ解放運動を活発にしない事を祈った。

 その夜、クリスは杖を握ったままベッドに入った。癒者が「とにかく魔法を使いなさい」と言っていたので、ベッドの中でひっそりと魔法の練習をしてみる。だが何の変化もない。それどころか、初めて杖を握った日に感じた温もりさえ感じる事が出来ない。

 本当にこんな事をしていて意味があるのだろうかと疑問に思ったが、何もせず、この暗闇の中で考え事をするよりマシだと考え、ひたすら杖を振った。


 翌朝、徹夜で魔法の練習をしていたクリスは、『呪文学』の授業でも『変身術』の授業でも、眠い眼をこすりながらひたすら懸命に杖を振るっていた。
 だが杖は光るどころか火花のひの字さえ見せなかった。分かっていたことだが、クラスの3割の人間が『消失呪文』を成功させているのを見て、焦りを感じないと言ったら嘘になった。

 何故、自分だけこんな目に――。そんな思いが胸を占めたが、うじうじ悩んでいても仕方がない。とにかく今はやれる事をやろう。
 そう気持ちを切り替え、授業が終わると昼休みはハリーとロンと一緒に図書館にこもって、徹底的に宿題を片付けた。そして空き授業の時間は実技にあてた。

「クリス、ちょっと休憩しない?」
「そうそう、根を詰めても良い事ないよ」

 1つ嬉しかったのは、魔法が使えなくなったからと言ってハリー達が腫れものを扱う様な態度を取らなかった事だ。
 3人とも、必ず魔力が戻ると信じてくれている事が救いだった。クリスひとりだったら、きっと落ち込んでまた自分の殻に閉じこもっていたに違いない。
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