第12章 拾弐ノ型.焦がれる
するりと手から滑った酒瓶は派手な音をたてて割れる。
わなわなと震えながら炭治郎を見るその目は血走り、先程より明らかに怒気を含んだ声が炭治郎へと浴びせられた。
「お前…そうかお前…"日の呼吸"の使い手だな?そうだろう!!」
「"日の呼吸"?何の事ですか?」
槇寿郎が何を言っているのか皆目検討もつかない炭治郎に、槇寿郎が飛びかかった。
落ちぶれても元柱。
目に見えぬ速さで炭治郎を地面へと叩きつけ馬乗りになる。
(速い!!素人の動きじゃないぞ…!!)
「父上!!やめてください!!その人の顔を見てください!具合が悪いんですよ!!」
「うるさい黙れ!!」
炭治郎を庇おうと間に入った千寿郎は、槇寿郎に殴られ倒れた。
口の端から血を流し地面に転ぶ千寿郎。
煉獄への侮辱どころか、幼い息子にまで手を上げる槇寿郎を目の当たりにして流石の炭治郎も黙ってはいられない。
「いい加減にしろこの人でなし!!」
勢いよく飛んできた炭治郎の拳に、槇寿郎は受身をとりつつ炭治郎の上から退いた。
「さっきから一体何なんだあんたは!!命を賭して戦った我が子を侮辱して!殴って!!何がしたいんだ!!」
溢れる怒りに敬語すら忘れ叫ぶ炭治郎を、槇寿郎は怯むことなく睨みつける。
「お前俺達の事を馬鹿にしているだろう。」
「どうしてそうなるんだ!!何を言っているのか分からない!!言いがかりだ!!」
「お前が"日の呼吸"の使い手だからだ。その耳飾りを俺は知ってる、書いてあった!!」
ゆらりと自分へ近づく槇寿郎。
その姿に後ずさりしつつ、炭治郎は思考を巡らせる。
槇寿郎の言っていることは、炭治郎にとって初耳な事ばかりだ。
もし自分が本当に"日の呼吸"というものを使っているのだとしたら、ヒノカミ神楽がそうなのではないかと思うが、あまりに確証がない。
「そうだ、"日の呼吸"は、あれは!!始まりの呼吸!一番初めに生まれた呼吸!最強の御業!そして全ての呼吸は"日の呼吸"の派生!全ての呼吸が"日の呼吸"の後追いに過ぎない!"日の呼吸"の猿真似をし劣化した呼吸だ、火も水も風も全てが!!」
息つく間もなく放たれる槇寿郎の言葉に炭治郎は唇を噛み締めた。