第12章 拾弐ノ型.焦がれる
「煉獄杏寿郎さんの事はお聞きでしょうか?杏寿郎さんの容態と、お父上と千寿郎さんへの言葉を伝えに来ました。」
言った炭治郎に千寿郎はおどおどと言葉を返す。
「…兄から?兄の事はすでに聞いておりますが…あの、大丈夫ですか?貴方顔が真っ青ですよ?」
それもそうだ。
炭治郎の腹の傷はまだ治っていない。
今日もだれにも告げずここまでやってきたし、胡蝶から動くことも禁じられていた。
きっと帰ったら大目玉だろう。
それでも、一刻も早く煉獄の言葉を伝えたい炭治郎は痛む体に鞭打ってここまで来ていた。
腹の痛みを耐え炭治郎がやっと口を開こうとした時、門の中から低い怒鳴り声が飛んでくる。
「やめろ!!どうせくだらん事を言っていたんだろう!大した才能も無いのに剣士などなるからだ、だから無様に負ける!!くだらない…愚かな息子だ杏寿郎は!!」
声の主は煉獄の父、槇寿郎だ。
目に余る暴言。
眉間に皺を寄せた炭治郎と俯く千寿郎を見ながら、槇寿郎は更に続ける。
「人間の能力は生まれた時から決まっている。才能のあるものは極一部、あとは有象無象。なんの価値もない塵芥だ!!杏寿郎もそうだ、大した才能は無かった。負けるに決まってるだろう。」
一息にそう言って、泣き始めてしまった千寿郎を睨みつける槇寿郎の顔はまるで獣だ。
握った酒瓶を離すことなく、またその口が止まることも無い。
「千寿郎!!鴉からも聞いただろう!聞いた通りの怪我ならばどうせ杏寿郎は死ぬ!期待するだけ無駄だ!いつまでもしみったれた顔をするな!!」
「…ちょっと!あまりにも酷い言い方だ。そんな風に言うのはやめてください!」
飛び続ける罵詈雑言に炭治郎が口を開く。
千寿郎へと向けられていた槇寿郎の視線は、やっと炭治郎へ移りその耳に揺れる飾りを見て目を見開いた。