第12章 拾弐ノ型.焦がれる
変に威圧的な訳でもないし、何だか一緒にいると心が休まるって言うか。
炭治郎みたいな音をさせる人だなとは思う。
泣きたくなるくらいにやさしくて、温かくて、底無しの愛情を具現化したような音。
(でもあの時は、煉獄さんから音が消えたあの瞬間だけはその音がキリキリと耳を引っ掻くような憎悪と悲しみの音になってたっけ...)
ポロポロ泣きながら煉獄さんを抱きしめてさ、ずっと煉獄さんの名前を呼んで。
ちょっと羨ましかったよ煉獄さんが。
あんな風に泣いてくれて、自分の為にその身を削って行動してくれる人が居るって凄いことだよな。
(きっと煉獄さんがすごい人だから、もっとすごい人達に認められてるんだな。ちょっと風変わりだったけど、強くて優しい音だった。傷ついた心を叩いて叩いて立ち上がる。そんな人なんだろうなって。)
物憂げに語ってるけど、誰も死んでないんだ。
俺達も早く前を向かなきゃ。
そう思って一番元気の無い炭治郎の所に(勝手に)貰ってきた饅頭を届けに来たのに、
「炭治郎さんがいませぇん!!!」
一発目に頂いたのはきよちゃんの頭突き。
え、可哀想じゃない?俺。
いや、女の子とこんなに熱烈に触れ合える機会そうそうないけどさ。
幸せと痛みの比率間違ってない?
「あーーーっ!善逸さんごめんなさぁい!!」
泣きながら謝ってくるきよちゃんに焦点の合ってない目で大丈夫って言ったけどさ、何?
炭治郎居ないの?
どういう事?
「ほんとにごめんなさい!炭治郎さんどこにもいなくって!炭治郎さん傷が治ってないのに鍛錬なさっててしのぶ様もピキピキなさってて...!!安静にって言われてるのに!!」
滅茶苦茶俺の鼻血拭きながら言うきよちゃんに一拍置いて理解したよ。
炭治郎脱走。
いやほんとに馬鹿なのあいつ。
「腹の傷かなり深かったんだよね?それでどっか言っちゃったのアイツ!!馬鹿なの?!」
俺の叫びなんて絶対届いてないだろうし、どこに行ったのかは大体検討がつくけど...
叫ばずには居られない。
とりあえず察して早く帰ってきてくれと、汚い高音で炭治郎の名前を呼ぶしか俺に出来る事は無いから
これ以上やったら喉仏ちぎれちゃうってくらいの大声を上げた。
「炭治郎ーーーー!!!!」