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千分の一話噺

第248章 初恋?


僕の街にはお金持ちのお屋敷がある。
大きな家に広い芝生の庭、高い塀に囲まれて大きな門が付いている。

ある日、僕がこの家の前を通ったら中から女の子が出て来た。
偶然目が合って、その子はにっこり微笑んだ。
僕と同じくらいの学年だと思うけど、うちの小学校では見た事がない。
お金持ちだから、どこかの特別な学校に行ってるんだろうと思った。



「今日から一緒に勉強する北條麗子さんだ」
次の日、僕のクラスに転校生がきた。
あの子だった。
お屋敷の子と言うことでみんなからは注目の的だが、女子はともかく男子はなかなか近寄れなかった。
しかし、彼女の方から僕に話し掛けてきた。
「昨日、会ったよね
よろしくね」
その笑顔に僕は慌てて目を逸らした。

その日から僕の頭の中は彼女でいっぱいになった。
彼女は明るく頭もよかった。
しかし、身体が弱く休みがち。
僕は先生に頼まれて彼女の家にプリントを届ける事になった。

お屋敷に入ると思うと緊張する。

インターホンで用件を言うとお手伝いさんが中に案内してくれた。
広い玄関に入ると彼女のお母さんが待っていた。
「わざわざありがとうね
麗子に会っていって…」
僕は彼女の部屋に通される。
「お見舞いに来てくれたんだ…」
少し痩せたように見えたけど、いつもの笑顔を見せてくれた。
「これ、先生から…」
僕がプリントを渡したら、「今日の学校の話し聞かせて…」と彼女が言ってきた。
僕は授業や給食の話しをした。
彼女は嬉しそうな悲しそうな、どちらとも言えない表情をしていた。
ふとベッドの脇に飾られた花が目についた。
「綺麗な花だね」
「山茶花よ
大好きな花なの…
でも、もうすぐ散っちゃう…」
真っ白な山茶花は彼女のように可憐に見えた。


それが彼女に会った最後だ。
後で聞いた事だけど、不治の病で最後にどうしても学校に行ってみたかったらしい。

今年も山茶花が咲く季節になった。



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