第7章 トラ男とパン女の攻防戦
いくら身動きを封じられても、ムギの手は自由だ。
厚い胸板に潰されていた手を引っ張り出して、愉しそうに耳を舐めるローの顔を退けようとした。
「手、邪魔だ。」
「邪魔してるんですよ! 見てわかりませんか!?」
若干キレ気味になって怒鳴ったら、ローの眉根ぎゅっと寄った。
口に出さなくてもわかる。
「生意気だ」もしくは「可愛くねェ」と思っているのだろう。
素直にキャッキャウフフと乳繰り合える女じゃなくて悪かったな。
だがしかし、いくらなんでも初心者には刺激が強すぎる振る舞いだ。
「いい加減、どいてくださ――」
途中で声を失ったのは、僅かに生まれた空間に立てたムギの足……正確には内腿のあたりになにか熱くて硬いものが触れたから。
厚いジーンズ越しでも伝わる熱と質量。
窮屈な布を押し上げて存在を主張するそれは、ムギにはない身体の一部分。
つまりは、男のソレ。
「な、え……ッ?」
小学生じゃあるまいし、男が興奮すればどういう反応をするかくらい知っている。
けれど、間近で見て、ましてや肌で感じたのは初めてで、生々しい現実に動揺が隠せない。
「なんだ? まさか、勃起も知らねェほどバカではないよな?」
「そこまでバカじゃ……ッ、し、知ってます!」
ローの乱れる呼吸を感じ、それなりに興奮しているのだとはわかっていた。
でも、いざ男の象徴が勃ち上がり、そういう意味で興奮しているのだと感じたら、狼狽えてしまってどうにもならない。
過去に一度、引き籠りの勘違い男から欲情の目を向けられたこともあったが、その時はただ気持ち悪いばかりで、こんな気持ちにはならなかった。
自分が女であると、恋愛対象であると、愛すべき人であると見せつけられたようで、心が騒ぐ。
臆病なムギは今すぐ逃げ出したい気持ちに駆られたけれど、怖気づいた心の隅には、確かな喜びが残っていた。