第7章 トラ男とパン女の攻防戦
ムギが危惧したとおり、防御力が低下した耳はすぐにローの標的となってしまった。
耳殻をがぷりとやられた途端、悲鳴を上げた。
「や、やあぁぁッ」
ねっとりとした舌の感触が頭の芯まで響き、反射的に足が動く。
テーブルの脚を蹴飛ばして、淵に置いていたマグカップがごとりと落ちた。
「危ねェな、気をつけろ。中身が入っていたら、面倒くせェだろうが。」
「ふざ、やめ…ぇ……!」
ふざけんな、やめろ!という暴言も、再び耳を舐め上げられれば嬌声の一部にへと変わってしまう。
ローの身体が本格的にムギの上へとのしかかり、外見に反して重い体重がムギの暴走を封じた。
大きな手のひらがムギの頭をすっぽり掴み、動きを制しながら耳を攻める一方で、もう片方の手は変わらず胸をまさぐっていて、意識をどちらに向けたらいいのかわからなくなる。
「こんな恰好で俺の前に出やがって、襲ってほしいと言ってるようなもんだろ。」
「ち、違……、んんぅッ」
いやらしいネグリジェ姿ならともかく、ムギの恰好はいたって普通のルームウェア。
本当に襲ってほしいつもりなら、パッド入りのキャミソールなんかじゃなく、勝負下着をつけるはずだ。
そんなもの、持っていないけれど。
しかし、ムギを選んだ時点でローの趣味は良いとは言えない。
化粧すらもしていない女を相手に興奮は高まっていくばかりで、息がどんどん荒くなる。
そうなると、荒ぶる呼気がムギの耳を擽って、完全に負の連鎖だ。
「や、や、口、離してぇ……!」
「チッ、煽ってるとしか思えねェ声を出しやがって……。」
唾液で濡れた耳を齧り、じゅっと吸われる。
「やあぁッ!」
咄嗟に以前と同じくローへ頭突きを繰り出そうとしたが、頭をしっかり掴まれているせいで不発に終わった。
「そう何度も食らってたまるかよ。」
バトルシーンさながらのセリフだが、ムギとローは戦っているわけではない。
戦っているわけではないけれど、ここで敗北を認めたら、すべてにおいて流されてしまう。
だからムギは、最後まで抵抗をやめない。