第7章 トラ男とパン女の攻防戦
ムギはまだ、いいとも悪いとも言っていない。
言っていないのに、ローの手はムギの膨らみをゆっくりと揉む。
「……お前、下着をつけてねェのか?」
耳もとで囁かれて、背筋にまたぞわぞわが広がる。
「ひぇッ」と情けない声を出しながら、ローの質問へ端的に答えた。
「つけて、ます。」
「そうは思えねェ。」
「キャミに、パッド、ついてるやつ!」
ブラジャーの締めつけは嫌いだ。
女に生まれた以上、必要不可欠なものだとわかっていても、せめて家の中だけは楽に呼吸がしたいもの。
その点で言えば、パッド付の肌着はいい。
息苦しさやワイヤーの硬い感触に悩まされず、快適に過ごさせてくれる。
けれどローはそう思わないようで、イライラしながら舌打ちを鳴らし、八つ当たり気味にムギの耳朶を噛んだ。
「バカじゃねェのか? 無防備すぎだろ。他の男の前でそれをやったら、ぶっ殺す。」
なんて過剰な心配。
世の中には、パッド付きの肌着をブラジャーの代わりに愛用する女子はごまんといる。
しかし、それよりもなによりも。
「み、耳! 噛まないで……!」
思いっきり首を振ってローの口から耳を取り上げた。
勢いをつけたせいで耳朶に犬歯が当たり痛んだが、そんなことはどうだっていい。
耳を舐めるとか、ありえない。
「なんだ、耳、弱ェのか?」
耳が弱くない人間などいるものか。
自分で触れるならともかく、他人に触られたり、ましてや舐めたり噛んだりされるなど、狂気の沙汰。
答える代わりにきつく睨みを効かせたが、くっと喉を鳴らしたローが嗜虐に満ちた笑みを浮かべたので、ざぁっと血の気が引く。
まさか、まさかとは思うけれど。
「ちょ、タイムです、タイム。耳はやめましょう?」
「そりゃ、耳以外ならいいってことか?」
「そういう意味でもないです。」
「なら、却下だな。」
ふざけないでほしい、本当に。
齧られた右耳を庇おうと首を傾けたら、今度は左耳の防御力が低下してしまい、どうしようもなくなった。
まさか、人間の耳が二つあることをこれほど恨めしく思う日が来ようとは。