第7章 トラ男とパン女の攻防戦
湯船を張るのは面倒で、熱いシャワーだけで済ませて歯を磨く。
寝る準備をしているわけではなく、もうなにも食べないぞと自分を戒めているのだ。
ペローナからもらったアイスだかシャーベットだか、そんなような名前のルームウェアは、ふわふわでとても着心地が良い。
すっきりしゃっきり目が覚めて、まだ水気が残る頭のままでバスルームを出ると、家の中にローがいない。
「あれ……、帰ったのかな?」
時計を見ると、すでに日付を跨いでいる。
一緒に住んでいるという親戚の人も心配するだろうし、帰宅しても不思議はなかった。
「声、掛けてくれればいいのに。」
とは言っても、勝手にシャワーを浴びてしまったのはムギだ。
メールが残っているかもしれないと思ってケータイを確認するため、寝室へ足を向けた矢先、誰も帰ってくるはずがない玄関の鍵がガチャリと開いた。
「……!?」
ぎょっと驚いてそちらを振り返ると、なんてことはない、玄関のドアを開けて入ってきたのは、コンビニのレジ袋を提げたローだった。
「び、びっくりしたぁ……。」
「ああ、悪いな。家の鍵、勝手に借りたぞ。」
「それは全然いいんですけど。コンビニ行ってたんですか?」
「まあな。」
マンションのすぐ近くにあるコンビニ。
スーパーと違って価格が安くないコンビニはあまり利用しないが、24時間営業しているのでなにかと便利だ。
「なに買ってきたんですか? うちにあるものなら使ってよかったのに。」
飲み物の種類はあまりないが、友達が遊びに来た時のためにスナック菓子なら備蓄がある。
軽い気持ちで尋ねてみたら、返ってきた答えはムギをフリーズさせるものだった。
「歯ブラシを買った。借りるわけにはいかねェだろ?」
「はぶ、らし……?」
歯を磨くためのアレ。
ムギも今、してきたばかりのアレ。
寝る前にしなくちゃいけない、アレ。
おや?
おやや?
「あの、もしかして……、泊まる気でいます?」
念のため、本当に念のために尋ねてみたら、返ってきた答えはやはりムギをフリーズさせるものだった。
「ああ、そのつもりだ。」
ちょっと、嘘でしょ。