第7章 トラ男とパン女の攻防戦
夕食が済めば、次は最重要課題であるテスト勉強。
ローの教え方はとても優しく、馬鹿にありがちな「わからないところがわからない」という残念な泣き言にも辛抱強く付き合ってくれる。
今さら恥ずかしがってもしかたがないと開き直り、散々な結果の答案用紙を見せては、間違った理由を紐解いていく。
「お前、公式をちゃんと覚えているか? うろ覚えな状態で挑むから、どの公式を使えばいいのかわからなくなるんだろう。」
「……あい。」
「まあ、公式なんざ覚えなくても気合があればどうにでもできるが……、お前に気合はなさそうだな?」
「……あい。」
ムギの気合は目下バラティエで働くことにあり、偏ったヤル気は勉強まで回りはしない。
もちろん、学生の本分は勉強であるとはわかっているが。
「数学なんて、掛け算と割り算までできればいいんですよ。学者になりたいわけでもないのに……。」
「10代のガキが、いつどこで学者になりたいと思うかわかんねェだろうが。学校ってのは、可能性を見つけてやる場所なんだよ。」
「正論を言わないでください。心が挫けそうです。」
訂正、すでに挫けている。
xとかyとか、aとかbとか、お願いだから統一してくれ。
それかもう、わかりやすくパンの名前とかにしてくれ。
ムギの間違えまくった答案用紙に赤ペンで正しい答えを記入したローは、なぜそうなるのか、正しい公式はなにか、事細かに説明してくれる。
丁寧で、非常にわかりやすい。
が、ここでひとつ問題が。
(んん、……眠い。)
慣れない勉強でポンコツな頭を酷使し、ついでに徒歩20分の距離を往復で全力疾走したツケがじわじわと、確実にムギを蝕んでいる。
ついでに言うと、ローの低くて心地が良い美声がまた、ムギの眠気をいっそう強くしていくのだ。