第7章 トラ男とパン女の攻防戦
宿題を終えた。
ミスを気にせず集中したおかげか、1時間も経たずに終えられて、ムギは強い筆圧のせいで痛み覚えた右手を解した。
「お、終わった……。」
やればできる、と思うほど自信過剰ではない。
短時間で終わった理由はすべて、ローにあるのだ。
「あれ……、そういえば、どこに?」
ようやくローの居場所を気にする余裕ができたのと同時に、部屋のドアが開いた。
腕まくりをしたローが戻ってきて、書き終えたばかりのノートを持ち上げる。
「終わったのか?」
「ええ、おかげさまで、一応。」
100%の確率でスペルを間違えているから、完璧に終えたとは言えない。
大変申し訳ないが、綴りのチェックは初めてできた彼氏様に任せるとしよう。
しかし、頼りになる彼氏様は、終えたばかりの宿題をチェックするのではなく、なんだかいい匂いが漂ってくるリビングへとムギを誘う。
「こっちに来い、メシができた。」
「メ、シ……?」
丸い瞳をぱちくり瞬かせ、促されるまま立ち上がる。
そのままリビングへ移動してみたら、ダイニングテーブルの上にはいつの間にやら用意された夕食が並べられていた。
「え、うそ、魔法?」
「んなわけあるか、バカ。いいから座れ。」
昔話で例えるのなら、せっせと頑張るムギのために小人が用意してくれたご褒美だ。
けれど現実には小人などおらず、美味しそうな夕食を用意してくれたのは、高すぎる身長のイケメンさん。
「わ、わ、なにこれ、リゾット?」
深皿の中で湯気を放っているものは、チーズが蕩ける牛乳リゾット。
土鍋で米を焦がしたムギとは違って、少し硬さが残る米は完璧な塩梅だ。
「すごーい。リゾットって、家で作れるんだ……。」
「いちいち大げさなやつだな。黙って食え。」
そう言いながら、向かいに座ったローは自分の分のリゾットを食べ始める。
食べながらぺらぺらとノートを捲っては間違ったスペルに印をつけ、要領の良さに感服するばかり。
ムギにはまだ、テスト勉強という試練が残っている。
あまりゆっくりしていられないと思いながら、熱々のリゾットを口にした。