第7章 トラ男とパン女の攻防戦
最後に野菜室を開けたら、料理をしなさそうなイメージに反して様々な野菜が入っていた。
そういえばムギは、料理をしないのではなく、料理が下手なだけだと思い出す。
茹でるのと切るのは得意だと自信満々に言っていたが、どうりでサラダに適した野菜が多いわけだ。
どんな野菜があるのかと物色していたら、底の方に使いかけの米袋を見つけた。
生米を冷蔵庫に入れると酸化防止になる、なんて知識をムギが知っているはずもないけれど、封が開いたそれはローのために購入したものだろう。
自分のために購入されたものがあると知って嬉しく、そして米があったことに安心した。
危うく、ローの主食もパンになるところだったから。
けれどもムギの家には炊飯器がないから、艶々の白米は諦める。
鍋や包丁の置き場所を探し当て、米を研いで野菜を切った。
水場は綺麗に掃除がされていて、ムギは家事ができないタイプではないようだ。
掃除や洗濯はできるのに、料理だけが下手。
一種の才能にすら思えたので、勉強と同じく彼女に料理を教えるのはやめにした。
(料理なんか、俺が作ればいいだけだ。)
当たり前のように、未来の自分たちの姿を想像する。
付き合って一日も経っていないのに、遥か先の未来を。
蓋をした鍋がぐつぐつ煮立ち、弱火にしてしばらく経った頃、ムギを残してきた寝室から「お、終わった……」と今にも死にそうな声が聞こえてきた。
休憩を促すには、ちょうどいいタイミングで。