第7章 トラ男とパン女の攻防戦
ムギの頭に英文もスペルも入らなくても、宿題は宿題だ。
提出することに意義があるので、書き綴ったノートの続きと教科書を照らし合わせた。
「まず、集中もできねェのにいろいろと手を出しすぎだ。宿題を終わらせてから勉強をしろ。」
「だって、途中で飽きちゃうんだもん。」
「集中力が切れた証拠だ。そんな時に違うもんを手に取ったって、頭に入るわけねェだろ。」
ド正論である。
気分転換に楽しいことをするならばともかく、苦痛な宿題から苦痛な勉強に移行しても、はかどるわけがなかった。
「そういう時は、一度休憩を挟め。風呂に入るなり、茶を飲むなり、なんでもいい。」
「……わかりました。」
「まずは、宿題を終わらせろ。」
「わかりました!」
「あと、こことここ、スペルが間違ってる。」
「……。」
この短時間で、ちらっと見ただけで、スペルの間違いを見つけるとか超人ですか?
「……まだあるな。いい、キリがねェから進めちまえ。終わったあとでまとめてチェックしてやるから、今は終わらせることだけを考えろ。」
「了解です。」
10回の書き写しは、すでに折り返し地点に到達している。
書き写すだけなら馬鹿にだってできるのだ。
スペルミスを気にしないのであれば、書き写すスピードはぐんぐん上がる。
結果、ただの作業と化したそれはムギの頭にまったく入らないけれど、今は時間が惜しい。
(ごめんね、たしぎ先生。来週からはちゃんと授業を聞くから、許して!)
心の中で英語教師に土下座をしながらペンを走らせている間に、隣に座っていたローが立ち上がり、なにやら声を掛けてきた気がしたが、集中していたので空返事をしてしまった。
刻々と、夜が更ける。
ムギはおバカさんだから、勉強を教えてくれるという餌に釣られ、今の状況をちっともわかっていなかった。