第7章 トラ男とパン女の攻防戦
今さら。
そう、今さら。
ムギがパンを愛しているのも、お金にがめついのも、馬鹿なのも。
今さらだから、全然はかどっていない勉強道具たちを見つめ、ムギは正直に自白した。
「……追試があるんですよ。」
「追試?」
「数学のテスト。今回もダメだったら、たぶん……留年候補に…入るかも……。」
最後は、消え入りそうな声だった。
ローの表情は見えないけれど、たぶん、間違いなく、呆れ返っているだろう。
「……ハァ。」
あからさまなため息が落ち、ムギの身体が縮こまる。
なんだか先生に怒られている気分になって、小さな声で「ごめんなさい」と呟いた。
「ったく、お前はいつもそうだな。いつもいつも、なんで俺を頼らねェ。」
そう言いながら、ローはムギの隣へ腰を下ろす。
「どこだ、テスト範囲。教えてやるから見せてみろ。」
「………あい。」
優しさが染みる。
泣きそうだ。
常識的に考えれば、「そこまで迷惑を掛けられないよ!」と断るべきところだが、実はというと、藁にも縋りたい気分である。
しかも、差し伸べられた手はそれはもう神々しい御手で、後日拝んで貢ぎ物をするので甘えさせてほしいと願った。
なにせ、ローは進学校のトップである。
テスト範囲が書かれたプリントをおずおずと見せたら、「お前の学校、まだこんなところを習ってんのか?」と驚かれた。
こっちは偏差値底辺のおバカ高校だ、進学校と一緒にしないでくれ。
「で、そっちの宿題ってのはなんだ?」
「これは、その、授業を聞いていなかった罰で、ここの英文を10回ノートに書き写さなくちゃいけないんです。」
「は? なんだそりゃ。」
馬鹿なくせに授業も聞いていないのか、と呆れられるかと思いきや、ローは違う点を指摘する。
「書き写してなんの意味がある。どうせお前はすぐに忘れんだろ? 時間の無駄だな。」
「……。」
ええ、まさにそのとおり。
教師よりもムギの頭をわかっているローって、いったい……。