第7章 トラ男とパン女の攻防戦
「ぎゃーーーー!」
まるでオバケにでも遭遇したかのような声を上げ、オバケことローがビクッと驚いた。
「うるせェ、静かにしろ。近所迷惑だろうが。」
「もがもが……ッ」
大きな手のひらで口を塞がれ、涙目になる。
事情を知らない人が見たら、絶対に強盗と間違われるだろう。
通報されては困るので、ムギは悲鳴を引っ込めて、両手を上げて「騒ぎません」とアピールした。
未だ不服そうにしているローの手はすぐに離れたけれど、大声を遮られたせいで咳が出る。
「げほ、こほ……ッ。な、なんでローが……、ここに……!」
「は? ついてきたに決まってんだろ。急に走り出すな。女がひとりでふらふら出歩くな。」
おっと、世話焼きモードが発動している。
「なら、声を掛けてくださいよ。いきなり背後にいるから、心臓が飛び出るかと思った……。」
「気づいてるかと思ったんだよ。同じエレベーターに乗っただろうが。」
「え、うそ。」
全然気がつかなかった。
無心で階数パネルを眺めていたから、エレベーターの中に人がいて、なおかつ同じ階数で下りたなんて、意識すらしていなかった。
「お前……、後ろにいたのが俺じゃなかったらどうするつもりだ?」
「や、わたしの背後にくっついてくるのなんて、ローくらいじゃないですか?」
「……ついこの前までストーカー野郎につきまとわれていた人間が言うセリフじゃねェなァ、おい。」
「……。」
反論の余地がない。
遠い目をして黙り込んだムギを邪魔そうに押し退け、ローが玄関のドアノブに手を掛ける。
「あ、ちょっと。」
「うるせェ、黙れ。いいからお前はあっちに行ってろ。俺がいいと言うまで入ってくるな。」
ひどい言い方だが、家の中に異常がないか確認をしてくれるらしい。
家主に断りもなく中へ入ってしまったローを見送り、しばらくしてムギも玄関のドアを開けた。
だって、ここはムギの家なのだ。