第7章 トラ男とパン女の攻防戦
ローの心がささくれ立つのとは反対に、ムギの心には安堵が広がった。
冷静になってみれば、あの執念深いローが一日やそこらで気変わりするはずがないのだが、絶対とも言いきれない。
けれど、こうしてはっきり“好きだ”と言ってもらえたら、今日ムギが感じた不安も単なる思い過ごしだったのだろう。
後悔してからじゃ遅いから、一秒でも早く自分の想いを伝えてしまおう……と思っていた。
でも、もしも両想いだった場合、自分たちがどうなるのかとまでは考えていなかった。
(付き合うってことは……、ローが彼氏になるってことか。)
恐ろしい、とてつもなく。
では、ムギが望む関係とはなんだろう。
少し前までは、恋愛感情抜きの良い関係を築きたかった。
それも悪くはない気がする。
だけど、もしムギとローが友達だったのなら、今のように逞しい腕に抱かれることも、彼の隣に並ぶことも求めてはいけない。
それはちょっと、恋を自覚しただけに寂しすぎる。
なんて贅沢な悩みなのかと叱られてしまいそうだが、ほんの少し前に恋を自覚したばかりのムギには正当な悩みだった。
付き合う。
今日から自分たちは、彼氏と彼女。
あまりにも大それた関係性に委縮してしまいそうだけど、互いに好意を寄せる男女ならば自然な関係。
(大丈夫、別になにが変わるってわけじゃない……。)
以前から、ローは付き合っているつもりだと豪語していたし、これからはムギもそれを受け入れるだけで、それほど大きくは変わらないだろう。
あの優しいローのことだ、不慣れなムギに合わせてゆっくりと歩いてくれるはず…――。
「とりあえず、俺の部屋へ来い。観念した以上、もう遠慮する必要はねェだろ……?」
前言撤回。
この男、不慣れなムギに合わせてくれる気は微塵もないようだ。