第7章 トラ男とパン女の攻防戦
恋とは、思いどおりにいかないもの。
ムギと出会ってから、嫌というほど知ったそれは、両想いになったはずの瞬間ですら容赦なく襲い掛かってくる。
いや、ふざけるな、本当に。
ローがどれだけムギを求めているか、彼女自身が知らなくてもしかたがない。
日々膨らみ続ける想いをぶつけきれていないし、恋が苦手なムギのために、最大限の譲歩はしてきた。
努力と我慢が報われた分、浮かれたっていいはずだ。
抱きしめたら抱きしめ返し、キスをしたら応えてくれる。
それくらいは期待してもいいはずだ。
それなのに、稀代の悪女ときたら、最後までローの純情を踏みにじる。
「わたしたち、付き合う感じですか?」
むしろ、他にどうするつもりなのか聞いてみたい。
「ローってまだ、わたしのことが好きでした?」
これについては論外だ、論外すぎる。
あれだけ好きだと言わせておいて、あれだけ好きだと体現させておいて、今さら疑うなんてどういうことだ。
甘く感動的な喜びが吹き飛んで、憎らしく恨めしい苛立ちでいっぱいになった。
「好きに決まってんだろうが……!」
ここで回りくどく言うと、予想外な誤解を呼ぶ。
なにせ、この女は馬鹿なのだ。
はっきり言っておかないと、捕まえたと思った瞬間に逃げてしまう。
「あ……、そうなんですね……。よかった……です?」
なぜ疑問形。
まさかとは思うが、告白できればそれでいいとでも考えていたのではないだろうな。
「今からお前は俺の女だ。異論は許さねェ。端からそうするつもりだったが、お前自身が自覚しろ。」
「う……。」
「なんだ、文句でもあるのか? この期に及んで、付き合うつもりはなかったとでも言うんじゃねェだろうな?」
「そ、そういうわけじゃ……。ただ、なんというか、そのへんのことを全然考えてなかったから。」
察するに、ムギが恋心を自覚したのは、たった今なのだろう。
どうしたらいいのかわからなくなって、後先考えずに突っ走ってきた……というところか。
まったくもって彼女らしい。
ローとしてはムギが自分を好きになった経緯を詳しく知りたいが、優先すべきは言質を取ること。
「今から俺たちは付き合う。いいな?」
「は、はい……。」
最初から最後まで、ローを振り回す女だった。