第7章 トラ男とパン女の攻防戦
ローの腕に囲われたムギは、早くも自分の決断を後悔していた。
安易に抱きしめてもいいだなんて言わなければよかった。
いや、正確には言ってはいないけれど。
積もりに積もった恨み……ではなく愛情のせいか、ローの抱擁は苦しいを通り越して痛い。
背骨が軋み、内臓が圧迫される。
下手くそか!とツッコミたくなったけれど、以前に抱きしめられた時にはそんなことはなかったので、単に力加減を忘れているだけだろう。
生命の危機を感じながら、ひとつだけ気になっていることがある。
(えぇっと、ローはまだ……わたしを好きでいてくれてるのかな?)
ここは重要なポイントだ。
ローの性格からして、好きでもない女を情熱的に抱きしめたりはしないだろうから、好きでいてくれている可能性が高い。
しかし、今までのムギたちはあまりに勘違いと誤解が多すぎた。
できるならば、きちんと確認しておきたいところだけど。
それよりも、なにより……そろそろ限界だ。
「ロ、ロー……、ちょ……もう、苦し……ッ」
「……!」
ハッとしたローの腕から力が抜ける。
気道が正常に確保できたことにより、ムギは激しく咳き込んだ。
危うく素敵な胸筋に埋もれて死ぬところだった。
「悪い、大丈夫か?」
「ま、まあ……。」
本当はまったく大丈夫ではなかったが、こんなことで心配されるのも情けなくて痩せ我慢をした。
ローの右手が優しく背中を撫でて宥めてくれる。
しかし、左手は未だムギの腰に回っていて、決して離そうとはしない。
ようやくムギの息が落ち着いたところで、背中を撫でていた腕が元の位置まで戻ってきた。
人通りが少なく、道の端に寄っているとはいえ、通行人や車が来ないわけではないのだから、いつまでも抱き合っていたくはない。
でも、やはりムギとローには温度差があるらしく、抱きしめた腕を緩めずに囁き声が落ちてきた。
「……キスしてェ。」
冗談でしょ?
そう尋ねようと見上げた先には、いたって真面目な顔をしたローがいた。