第7章 トラ男とパン女の攻防戦
一度想いを伝えてしまえば、それまで感じていた緊張が嘘のように抜けていった。
達成感に満ち溢れ、愛想を尽かされてしまったのかも……という不安すらもどこかへ吹き飛び、清々しい気分になる。
初めての告白により興奮したムギは、別の方向へとハイテンションになっていた。
だから、普段は思ってもあまり口にしないことも、恥ずかしげもなく告げられた。
「そうですね……、やっぱり一番は優しいところですか?」
「……は?」
自分から尋ねてきたくせに、不可解そうな声を出すローの顔を見上げ、あとはどこが好きだろうと考える。
「んーっと、世話焼きなところも、好きといえば好きです。」
迷惑といえば迷惑だけど、とは付け足さなかった。
「あとは、わたしのダメなところ知っても見離さないでいてくれるとこと、わたしの好みに付き合ってくれるところ。」
「……おい。」
「それから、顔と声は言うまでもなく素敵ですね。わたしがローだったら、芸能界デビューして荒稼ぎしたいなぁ。」
「……ッ、おい、待て。さっきから……なんの話をしている?」
空いた片手で指折り数えていたら、ローから制止が入った。
せっかく質問に答えているのに、と視線を彼に戻したら、珍しくもローの頬が微かに紅潮している。
まさか、照れたのだろうか。
「なんの話って……、ローが聞いてきたんじゃないですか。俺のどこが好きか、って。」
ムギはただ、質問に答えただけだ。
「確かに聞いたが……、いや、お前……本当になにを言いに来た?」
頭の良い彼が、困惑しているようだ。
おかしいな、ムギにしては簡潔に伝えたはずなのに。
「だから……、ローのことが好きですって言いに来ました。」
二度目の告白は、嘘みたいに軽く口から滑り出た。
ああ、でも、これが本来のムギ。
緊張してもじもじしたり、ネガティブな不安に怯えるムギなど、あるべき自分じゃなかった。
だから、もう一度彼に伝えよう。
「わたし、ローに恋をしました。」