第7章 トラ男とパン女の攻防戦
ムギの残念な思考回路を思い出したローは、ため息混じりに質問をする。
「なにが好きだって? まさか、パンの話じゃねェだろうな?」
ムギの好きなものといえば、パンとお金。
さすがにお金が好きだと宣言しに来たわけじゃないだろうから、可能性としてはパンが濃厚。
なにせ、彼女の頭の中は半分以上がパンでできている。
けれどもムギという女は、いつだってローの予想を軽く上回った行動をする女だった。
「なに言ってるんですか? わざわざパンが好きだなんて言いにくるわけないじゃないですか。」
「もっともな意見だな。じゃあ、なにが好きだって?」
「だから、ローのことがですよ!」
「……は?」
今度こそ、ローの頭の中はクエスチョンマークでいっぱいになる。
相手は、ローが欲しくて欲しくて堪らない女。
彼女の愛を得ようと、らしくもない行動を起こし、大嫌いなパンにも挑戦している。
ムギを恋い慕っているのは、ローの方だ。
まさか、と一瞬だけ色めいた期待を覚え、それから、ないな、と諦めに似た現実を見る。
期待をする分、あとから知った現実との落差にがっかりするだけ。
真剣な恋心を弄ばれた気がして苛立ち、無意識に掴んだムギの腕を握る力が強まった。
「俺のなにが好きだって?」
「なにって……え、そこまで細かく言わなくちゃいけないんです?」
「そうしろ。」
じゃないと、彼女が言わんとすることがわからず、ローの苛立ちは余計に深まってしまう。
強く掴まれた手首を気にして、それを外そうと試みたムギは、しかし、外れそうにもないことを察して早々に諦めた表情をする。
うーん……と首を傾けたあと、彼女は思いつく言葉を思いつくままに発した。