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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第7章 トラ男とパン女の攻防戦




手の中で震えるケータイの画面を、ローは食い入るように見つめた。

なぜムギが、という疑問が浮かんできては、掛け間違いか、という疑念までもが浮かんでくる。

たっぷり4コールの時間を置いて我に返り、慌てて通話ボタンをタップした。

「どうした?」

ムギの方から連絡が来たのはこれが初めて。
どんな理由であれ、嬉しくてたまらない。

しかし、いざ応答してみると、喉から絞り出た声は感情を裏切るように冷たく平坦。
彼女が誤解してしまわないか内心焦ったが、電話の向こうのムギはそれどころじゃなさそうで。

『……ハァ、ハァ。も、もしもし?』

息が乱れ、声が掠れている。
なにかのトラブルに巻き込まれたのかという可能性を意識したら、途端に驚きも喜びも吹き飛んでいく。

「なにかあったのか?」

真剣に尋ね、気が早まった腰が床から浮く。
すぐに彼女のもとへ向かうべきか選択を悩んでいると、乱れたままの声がすぐに返ってきた。

『いや……、あの、どうも……しないんです、けど。』

「なにもないって声じゃねェだろ。」

『これは、ちょっと……、全力疾走しから、で……。』

「はァ?」

どうやらトラブルに巻き込まれたわけではないらしい。
まったくもって紛らわしく、安堵の息を吐いたローは、浮かせた腰をそのままベッドに落とした。

「で、なんの用なんだ?」

用事がなければ、ムギは電話を掛けてきたりはしない。
ローの声が聞きたいから、なんて願ってくれる女じゃないのだ。

『えーっと、実は……、話したいことが……あるような。』

「なんだその、ふわふわした理由は。」

『んん……、あります。話したいこと、あります!』

うるさい、声が大きい。
耳がキンと痛くなって少しだけ電話を離し、続きを促した。

「そんなに怒鳴んなくても話くらい聞く。なんだ、言えよ。」

無駄に長い足を組み、片手をついてベッドに重心を預けた。
どんな長話でも、夜通し付き合う覚悟くらいある。

すると、急に無言になったムギは、やがておずおずと質問をしてきた。

『……今、どこにいます?』

「あ?」

『わたしは、今……、ローのマンションの下にいるんですけど……。』

「は……?」

するりとケータイが滑り落ち、ローの腰は再び浮いた。



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