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パンひとつ分の愛を【ONE PIECE】

第7章 トラ男とパン女の攻防戦




電車を乗り継いで家に帰った頃には、すでに月が輝いていた。

夕食の準備をするのも面倒だ。
帰り道のコンビニで弁当でも買ってくればよかった……と思いながら玄関の鍵を開けたところで、回したままの洗濯物を思い出す。

今日はよく晴れていたから、外に干そうと思って乾燥機能をセットしていない。
つまり、洗濯機の中には今朝洗った衣服がそのまま眠っているわけで。

「……くそッ」

不運――いや、人災だ。
これを運が悪いなんて言葉で片付けてたまるか。

一、二時間程度ならばともかく、半日ほど放置してしまった洗濯物は生乾き特有の嫌な臭いを放っている。
これは洗濯し直さないと、どうにもならない。

夜干しする気にもなれず、今度こそ乾燥機能をつけて洗濯機を回した。

自室に入り、やや乱暴に上着を脱ぎ捨て、充電切れを起こしたスマートフォンにプラグを差し込む。
そもそも、リビングで充電をしたのが間違っていたのだ。

赤いランプがついた電話を眺めながら、ムギのことを考えた。
忙しいと言っていた彼女は、今なにをしているのだろうか。

(連絡、寄越したりは……。)

まあ、しないだろう。

でも、万が一という可能性はある。
ムギには時間が空いたら連絡するように言っておいたから、もし、もしも、連絡をしてきていたら……。

そう考えた途端、急に落ち着かなくなって、先ほどとは異なる意味の苛立ちが募る。
何度か電源ボタンを長押ししたら、充電が少し溜まった電話が長い眠りから目を覚ます。

ケータイ電話というものは、なぜこうも初動が遅いのだろう。
電話会社の名前、機種の名前が順番に表示され、こちらの気持ちを無視してゆっくりと起動する。

「チッ、早くしろ。」

ケータイに向かって文句を言ったのは、たぶんこれが初めてだ。

しばらく読み込みをしたあとに、やっといつものメイン画面が帰ってくる。
様々な通知が押し寄せる前に、親指で素早くメールアプリをタップした。

未読のメールは、あった。

あるにはあるが、それはローが求めているものではない。
幼馴染の親友たちには申し訳ないけれど、彼らのメールはむしろ邪魔だとすら思った。

一番知りたかった彼女のメールは、昨夜ローが送った文章で終わっている。

わかっていた、連絡を寄越さないことくらい。
期待した分、落胆が大きくなることくらい。



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