第7章 トラ男とパン女の攻防戦
「悪い悪い! 財布忘れて出ちまった上に、Suicaの残金がゼロになっちまってさ。派出所のお巡りさんに初めて金借りちまったぜ。」
なんて、軽快に笑うコラソンは、予想通りスマートフォンの取り間違いに気づいていなかった。
「ロックが解除できなくて、ついでに派出所で相談したらよ、故障じゃないかって言われてさ。帰ったらローに調べてもらおうと思ってたんだ。いやァ、お巡りさんって親切なんだな!」
そういうコラソンも、お巡りさんの一員であるはず。
「わかったから、早く俺の電話を返してくれ。」
「えッ!? ああ、これ、よく見たらローの電話じゃねェか……!」
「今さら……。いや、もういい。」
「悪い! ほんっとに悪かった! そうだ、詫びに好きなもんを食いに――」
「こりゃ、ロシナンテ。お前はこれから始末書だろう!」
将棋の駒を片付けたセンゴクが定時に帰ろうとするコラソンに釘をさした。
単独行動をした罰で、始末書を書かなくてはいけないらしい。
そういう意味では、将棋ばかりしていたセンゴクも十分始末書提出に値すると思うのだが。
「く、くそ……。すまねェ、ロー! お前には、いつも寂しい思いばっかさせて!」
「別に寂しくねェよ、いくつだと思ってんだ。」
「そこはちょっと、寂しがってくれ……。」
しゅんと肩を落としていじけた素振りを見せるが、コラソンも年齢で言えば中年だ。
そんな態度をしても可愛いはずがない。
「疲れた。もう俺は帰るぞ。」
大人の御守りはもうたくさん。
どうせこの調子では、仕事に追われるコラソンは家に帰ってこないだろう。
肩をこきりと鳴らしたローは、コラソンから自分のケータイを取り戻して物々しい雰囲気の署内から出ていった。
しばらくぶりに外の空気を吸い込むと、ふいにムギの顔を思い出す。
顔を合わせられない休日は、どうしても彼女が恋しくなる。
メールのひとつでも送ろうかと、取り戻したばかりのケータイを弄った。
が、電源ボタンを押してもディスプレイが明るくならない。
「……充電切れかよ。」
コラソンと別れてからもなお、人災は続く。