第7章 トラ男とパン女の攻防戦
ゲームは得意だ。
幼い頃から“とある宿敵”に、チェスやカード、将棋に囲碁にリバーシにいたるまで仕込まれて、そこらのプロにも負けないくらいの腕と自信がある。
が、しかし、人生においてその腕前が役に立ったことは、どちらかといえば、ない。
むしろ、いつも大人の相手をさせられて辟易とするくらいだ。
「……王手。」
「待った! ちょっと待て!」
「またかよ。何度目だ、ジジィ。」
「いや、しかし、それは卑怯だろう!」
「どこが卑怯なもんか。れっきとした正攻法だろうが。」
年下相手に「頼むから待ってくれ」と懇願する初老を眺め、ローは何度目ともいえぬため息を吐いた。
あれから、六時間は優に超えている。
途中、センゴクの奢りで昼食の出前を挟みつつも、時刻はすでに夕方になっていた。
仕事中にも関わらず、四半日を遊びに費やす警察官。
本当にこの国は大丈夫なのだろうか。
「おい、コラさんはまだ戻らねェのか。」
「む……、そうだな。そろそろ連絡が入ってもいい頃なのだが。」
コラソンからは、当然ながら連絡がない。
例えば公衆電話から自分のケータイに連絡するという手もあるだろうに、ドジな彼はそんな初歩的な方法も思いつかないのだろう。
というより、電話の取り間違いに気づいているかも怪しい。
ちなみに、コラソンのケータイに掛かってきた電話にはセンゴクが出て、的確な指示をしているからそのあたりは問題がなかった。
「そろそろ俺は帰りてェ。」
「待て、もう一局。もう一局だけ。」
自分のケータイは諦めて、さっさと退散したいところなのに、何度も続く“もう一局”に足止めを食らっている。
コラソンの上司だから無下にはできず、それこそ仏の心で応じていたが、そろそろ限界だ。
そんなローの窮地を察してか、部屋の電話が内線のコール音を鳴らした。
「……もしもし、私だ。ん、そうか……、ロシナンテが戻ったか。」
心なしか残念そうなセンゴクをよそに、コラソンの帰還に心から安堵した瞬間。