第7章 トラ男とパン女の攻防戦
捜査は足で稼げとは言うが、刑事の仕事はドラマよりも過酷である。
事件が起きれば現場へ急行し、事情聴取や聞き込み、場合によっては尾行や張り込みも遂行されるので、有能な刑事ほどひとところに留まってはいない。
案の定、訪ねていった先にコラソンはいなかった。
「ドンキホーテ・ロシナンテの身内だ。忘れ物を届けに来たんだが。」
受付でコラソンの本名を告げ、身分証を提示すると、対応してくれた女性は速やかに確認をしてくれた。
さすがは公務員、見惚れるほどの年下イケメンに話し掛けられても、頬を染めるような失態は侵さない。
「お待たせしました。ロシナンテ警部は現在離席しております。」
「どこへ行ったかはわからないのか? 大事なものなんだ。」
「申し訳ございません。いくらお身内とはいえ、外部の方にお伝えできかねます。」
「なら、連絡を取ってくれ。」
「それが、その……、ロシナンテ警部は行方がわからな……いえ、単独捜査をしておりまして。」
察した。
コラソンには猪突猛進というか、行動の予測が不可能というか、とにかく周囲の心配や迷惑を顧みずに単独て突っ走るところがある。
今回もきっと、例によってそのパターンなのだろう。
(しかたねェ、出待ちするか……。)
居場所を聞き出すことを諦めたローは、受付を離れて署内の入り口にてコラソンを待とうと思った。
そこへ、第二の不運が重なる。
「おや、お前はロシナンテのところの小僧じゃないか。」
声を掛けてきたのは、コラソンの上司であるセンゴク。
仏のセンゴクとの異名を持つ彼とは、コラソンを介して何度か顔を合わせたことがある。
「あんたか。ちょうどいい、コラさんに会いたいんだが。」
「奇遇だな。私も彼奴を捜している。」
「そうかよ。なら、あんたに聞いても無駄骨だったな。」
「そう言うな。どれ、ちょいと私の部屋に来い。ちょうど相手が欲しかったところだ。」
センゴクの手が将棋を指す真似をしたので、呆れたため息を返した。
「暇なのかよ、ジジィ。」
「ほんの休憩だ。ロシナンテが戻ってきたら私に知らせが来るぞ? こんなところで待ちぼうけるより、よほど有意義だろう。」
どちらにしても待つのなら、暇を潰せる方がいいか。
そう思ったローは、煎餅片手に堂々と職務怠慢をするセンゴクについていった。
