第7章 トラ男とパン女の攻防戦
厄日か、と自問してしまいたくなるほど、今日のローは不運だった。
いや、不運という言葉で片付けてはいけない。
これはただの、人災である。
そう、コラソンのドジという名の人災。
ローとコラソンのケータイは、同じ機種のスマートフォン。
「同じ電話だと、わかんなくなったらローに聞けばいいしな!」と言って、ほくほく笑顔でケータイショップに向かう彼を止めてやればよかった。
コラさんにはシニアタイプで十分だと諭して。
コラソンは重度の機械オンチで、スマートフォンの機能を使いこなせず、通話とメールくらいしか活用できていない。
まあ、そのあたりの事情はさておいて、要略すると“コラソンがローのケータイを持って出勤した事件”が勃発したのだ。
気がついたのは朝、家を出るコラソンを見送って、朝食の後片付けをし、洗濯機を回したあとだった。
充電中のケータイを取ろうとリビングへ向かうと、あったはずのそれがない。
おや、と首を傾げた直後に最悪のパターンを想定できたのは、ひとえにローがコラソンの世話に慣れているからとしか言えず、コラソンの寝室に入ってみたら、枕元にローと同じ機種のスマートフォンが転がっていた。
ちなみに、ローのケータイはメタル系のハードカバーで、よく電話を落とすコラソンは衝撃吸収型のソフトカバー。
色も素材も違うそれを違和感なく持ち出せるコラソンは、やはりドジっ子だ。
別に一日くらい、ケータイ無しでも生きていける。
しかし、コラソンは違う。
刑事という仕事柄、重要な電話はひっきりなしに掛かってくるだろうし、ロックが掛かったローの電話を扱えるとも思えない。
長く重たいため息を吐き出したあと、ローはコラソンの後を追うべく家を出たのだ。