第7章 トラ男とパン女の攻防戦
ローが好き。
かなりの時間差で気づいた想いを自覚したからといって、これからどうしたらいいのだろう。
今さら付き合ってほしいだなんて、言えない。
だって、ローは心変わりをしたかもしれなくて、身の丈に合わない恋には変わりないわけで。
つらつらとネガティブな言い訳ばかり募る胸中とは反対に、ムギの足は動く。
立ち上がり、リビングに出て、じっとプリクラを見つめた。
ローには、誰か他のふさわしい女の子を選んでほしいと思っていた。
でもそうしたら、きっともう、友達にも戻れない。
他の子と付き合ったら、このプリクラの隣には、自分じゃない誰かが写るのだろう。
例えば、ローに恋したあの女子高生とか。
名前も知らない女子高生の顔がふと鮮明に蘇り、無駄に想像力が高い頭が勝手にムギのポジションへ置き換える。
デートをするのだろうか、手を繋ぐのだろうか、キスをするのだろうか。
ずっと彼の隣に、いるのだろうか。
そんなのは、嫌だ。
なにかを考える前に、ムギは駆け出していた。
ケータイを握りしめ、上着も羽織らず、マンションの外へ飛び出した。
途中でリダイアルからボニーの名前を探し、電話を掛ける。
『おう、ムギ。なんだよ、勉強捗ってるか?』
「あの、ボニー、ごめん!」
『は? なにが?』
「わたし、いろいろと、鈍くって!」
走りながら喋ると、息が切れてうまく会話ができない。
それでも、ムギの親友は言いたいことをきちんと汲んでくれる。
『気づいたのか?』
「うん、気づいた!」
『それで? どうすんの?』
「わかんない! でも、走ってる!」
なぜ走っているのか、なにがしたいのか、ムギにだってわからない。
でも、いてもたってもいられなくて。
『そっか。それでこそ、私の好きなムギだ!』
“好き”の言葉に、目の奥が熱くなる。
わたしも、と呟こうとして、だけど先に伝えなくちゃいけない人を思い出した。
『いいよ、それで。お前はただ、そのまま走れ!』
「……うん!」
なにが正解かなんて、誰にもわからない。
だけど、それでいい。
毎夜彼がひとりで歩む道を、ムギに費やしてくれた距離を、全速力で駆け抜けるだけ。