第7章 トラ男とパン女の攻防戦
久しぶりの土曜休みだというのに、ムギはのんびりとした休日を満喫できず、宣言どおり家で缶詰になって勉強をしていた。
まずは厄介者の宿題をやっつけなければと思うけれど、殊の外、勉強に関しては集中力が続かないムギの進みは悪い。
集中したいから、とローに言った愚か者はどこのどいつだ。
ちまちまノートに英文を綴っては、追試に向けて別の教科の勉強をする。
はっきり言って、効率も悪ければ集中もできない。
時間は有限で、ムギにはもうあとがないのに。
「あー……、もう!」
八つ当たり気味に教科書を放り投げ、ベッドに突っ伏す。
朝から放置していたケータイを手に取り、何気なく画面を明るくしてみるが、目立った通知は来ていなかった。
ボニーを含めた学校の友達は、全員ムギの緊迫した状況を知っている。
だから誰も連絡はしてこないが、朝から一度もローが連絡を寄越さないのは初めてだった。
普段は授業中だろうがなんだろうが、わりと頻繁にメールを送ってくるのだ。
内容といった内容はなく、眠いとか、次の授業はなんだとか、なにをしている?とか、本当にどうでもいいメール。
メール不精なムギの返事は三回に一回程度だけど、彼がそれを気にした様子はなく、最初は「メール送ってきすぎでしょ」と思ったムギも、慣れてしまって今や気にしていない。
「めずらしー……。」
ケータイから手を離したムギは上半身だけベッドに預けたまま、ゆるりと目を瞑った。
だが、一分と経たないうちに、再度ケータイに手を伸ばす。
もちろん、メールは来ていない。
「……。」
たぶん、アレだ。
用事があって集中したいとムギが言ったから、意外と気遣いができるローは、そっとしておいてくれているのだろう。
(なに気にしてるんだろ、わたし。)
ローから連絡がない。
だからなんだ。
静かでいいじゃないか。
望んだとおり、勉強に集中できる。
ぶるりと大きく頭を振って、身体を起こす。
さっさと勉強をしないと、留年なんて冗談じゃない。