第7章 トラ男とパン女の攻防戦
夜の道を歩むローの歩調は緩い。
意識してゆっくり歩んでくれているだろうに、それに慣れつつある自分がいた。
「明日は、昼から入るんだったな?」
「え……?」
一瞬なんのことだかわからなくて首を傾げ、それからバイトのシフト話だと思い当たった。
ローのスケジュールアプリにシフトを入力したとはいえ、しっかりと記憶しているところがちょっと怖い。
「あ、いえ、明日は休みになりました。」
「は? それならそうと早く言え。なんで隠してやがった。」
「すみません……って、なんでわたしが謝らなくちゃいけないんですか!」
「報告を怠ったからだろ。まさかとは思うが、浮気じゃねェだろうな?」
浮気と口にしたローの瞳が剣呑に光り、鋭い眼光がぐさぐさ刺さる。
「ちが……ッ、たまたまお休みもらって……って、わたしたち付き合ってませんから!」
うっかり言い訳してしまった自分が憎い。
ローはローで、「付き合っていない」の部分を華麗に無視し、「次から気をつけろ」と彼氏面して注意する。
すべてにおいて、イケメンだから許される行為だと思う。
いや、許してはいないが。
「つまり、土日は暇ってことだな?」
「まったく暇じゃありません。予定が詰まりまくってます。」
隙を見せたらローのペースに乗せられてしまいそうな気がして、全力で否定した。
嘘は言っていない、現に予定は詰まりまくっている。
しかし、傍若無人な自称彼氏は簡単に引き下がってくれず、自分より大切な予定とはなにか尋ねてくる。
「なんだ、言ってみろ。」
「黙秘します。プライベートな問題です。」
「うるせェ、吐け。言っておくが、俺は浮気を許すほど、寛大な男じゃねェぞ。」
だから、なんで、浮気になるのか!
そもそも、ムギの浮気相手になってくれるような男性は残念な従兄とイケメンなパン嫌いしか存在しない。
あたかもムギがモテるような発言はやめてほしい、悲しくなるじゃないか。