第7章 トラ男とパン女の攻防戦
せっかく金曜日の夜だというのに、迫り来る追試のせいで気分はどん底だ。
バイトが終わってしまうと途端に憂鬱感が増し、なんとか気分を盛り上げたくて今日は自腹でパンを買った。
「……遅い。」
パンが入った袋を提げて店から出ると、不機嫌な顔をしたローから文句を言われる。
毎度のことだが、文句を言うなら来なければいいだけの話だ。
「行くぞ。」
端から謝罪の言葉など期待していないローは、昨夜と同じくムギに向かって手を差し出した。
それがなにを意味するのかは、昨夜の今日で忘れるわけがない。
「いや、結構です。」
「いいから寄越せ。」
「荷物持たせるのとか、ちょっと嫌なんです。自分の荷物は自分で持ちますから。」
「なら、お前ごと抱えてやろうか。」
「あ、喜んで差し上げます。」
ローの冗談は冗談に聞こえず、ムギは態度をコロッと変えて鞄を彼に渡した。
自分からそう仕向けたくせに、「可愛くねェ」と舌打ちされる。
極めて不本意だ。
「……重いな。」
「だから自分で持つって言ったのに。」
「そういう意味じゃねェよ。なおさら持たせられねェだろ、バカ。今日はなにが入ってる。パンってわけじゃなさそうだな。」
パンの袋は鞄とは別に持っているから不思議に思ったのだろうが、持ち物チェックがいちいち面倒くさい。
「教科書とノートですよ。わたしだって、勉強道具くらい持ち歩くんです。」
「昨日と言っていることが違うが?」
「……週末は持ち歩くんです!」
追試があるから、とは言えなかった。
これ以上バカだと思われたくなかったのか、呆れられたくなかったのか、理由はよくわからない。
なんとなく、格好悪い自分を曝したくないと思ったから。
そんなの、今さらなはずなのに。