第7章 トラ男とパン女の攻防戦
宿題とテスト勉強のためにどっさりと重くなった鞄を手に、放課後はバラティエに向かう。
今さらながら、土日とも休みにしておいて助かった。
悲惨な結果の答案用紙を広げて、なにをどう間違ってしまったのか紐解かなければ。
ちなみに、諦めて空欄にした問題も多い。
「……はぁ。」
「ムギちゃん、どうしたの? ため息なんてついて。幸せが逃げちまうぞ?」
ため息如きで幸せが逃げるのなら、ムギは今頃不幸のどん底人生を送っているだろう。
そう確信してしまうほど、最近はため息の数が増えたと自覚している。
「来週、追……いえ、テストがあるんです。勉強しなくちゃいけないから、ちょっと憂鬱で。」
追試と言わなかったのは、バイトばかりに精を出して学業を疎かにしていると知られたくなかったからだ。
サンジはともかく、ゼフの耳に入ったら、しばらく出禁にされてしまいそう。
ゼフにはそういう父親的一面がある。
「へぇ、テストか。懐かしいな!」
今はパン職人としてバリバリ働くサンジにも、当然ながら学生だった時代がある。
好きな仕事に打ち込む彼を羨ましく思いながら、参考までに尋ねてみた。
「サンジさんは、どんなふうにテスト勉強してましたか?」
ムギはもっぱら一夜漬けタイプだ。
しかし要領が悪いので、叩き込める知識は雀の涙。
「テスト勉強、かぁ……。あんまりした覚えがねェな。」
その答えを聞いて瞬時に理解した。
あ、この人、勉強できるタイプの人だ。
世の中には、授業を一度聞いただけで頭に入れてしまう人間がいる。
そういうタイプの人間は、テスト前にわざわざ勉強する必要がないのだろう。
「……そうですか。」
にっこりとした笑みを張りつけたまま、ムギの口の端から砂が流れた。
「なんかわからないとこがあるなら、教えてあげようか?」
「いえ、結構です。」
天才には、きっとわからないのだ。
わからないところがわからないという、残念な状況が。
それに勉強を教えてもらうのなら、それこそ彼の時間を丸一日もらうくらいの手間が掛かるとムギは理解していた。
そんな願いを口にできるほど、ムギだって非常識ではなかった。