第7章 トラ男とパン女の攻防戦
「バカだなぁ、ムギ。なんでよりにもよって、たしぎちゃんの前でドジしちゃうの。」
授業が終わってから、友人たちには呆れと同情が混じった声を掛けられた。
英語教諭のたしぎは教員の中では若い世代に入るのだが、真面目で堅物だと有名な女性。
うっかり居眠りをしようものなら、山のような宿題を課せられてしまう。
それでも彼女が横暴だと嫌われないのは、ひとえに熱血ともいえる性格のおかげで、面倒見はとても良いタイプ。
愛の鞭だと揶揄される罰をムギが受けたのは、これが初めてだった。
「ていうか、あんた来週追試だったよね? そっちの勉強は大丈夫?」
「う……。」
「なんなら、事情を説明して宿題免除してもらったら? たしぎちゃんなら、多少はわかってもらえると思うけど。」
「……いや、いい。」
追試を受けるような分際で、授業を聞いていなかったムギが悪いのだ。
それを棚に上げて、追試があるからと罰を逃れようとするのはおかしいと思う。
「あんたって、変なところで頑固だよね。普段はバカみたいに素直なくせに。」
「……褒めてるの? 貶してるの?」
「褒めてるつもり、一応。」
苦笑を零した友人の言葉にへそを曲げつつ、どこかで聞いたセリフだなと既視感を覚えた。
(ああ、そうだ。ボニーにも同じようなことを言われたんだっけ。素直で真っすぐなところが好きって。)
でも、今のムギは好きじゃないと言われた。
ならば、ボニーから見る今のムギは、素直でも真っすぐでもないということだ。
(頑固、かぁ……。)
友人から何気なく指摘された評価を心の中で反芻し、ため息を落とす。
「土日でなんとか頑張るよ。」
「頑張れ。応援だけはしてあげるから。」
応援だけって冷たいなぁと拗ねながらも、だからといって勉強を教えてあげられるほど友人も勉強ができるわけじゃない。
例えばローならば、テストで百点を取ることも朝飯前なんだろうけれど。